【北京=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、党中央軍事委員会拡大会議で「国防力の強化」を打ち出した。今年、13回にわたって発射した新型短距離弾道ミサイルなどの開発に象徴される武力増強路線の加速を事実上宣言し、米国に圧力をかけた形だ。ただ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の扱いが議題に上ったかなど、会議の具体的な内容は公表されず、北朝鮮が今月下旬の開催を予告した党中央委員会総会での決定が注目される。
「近づくクリスマスのプレゼントに何を選ぶかは全面的に米国の決心にかかっている」。北朝鮮外務省高官が今月初めにこう警告したことから、非核化などをめぐる米朝交渉で譲歩しないトランプ米政権にしびれを切らし、クリスマス前後に米本土を射程に収めるICBMの試射に踏み切るのではないかという観測が米韓の一部で持ち上がった。
ただ、対米関係の断絶にもなりかねないICBM発射の強行には懐疑的な見方が強い。何よりICBM発射と核実験の中断は、党全体の方針決定を担い、今回の会議より格が上の昨年4月の中央委総会の討議を経て、自主的措置として経済建設への集中路線とともに打ち出したものだ。
政策決定に関して金氏は、自身の独断でなく党や政府の「総意」だと強調するため、党の重要会議や国会に当たる最高人民会議の決定を重視してきた。それだけに、ICBM発射の再開などは党中央委総会の討議を経る必要がある。
一方で、総会に先んじて中央軍事委会議の開催を公表することで、「間もなく最終決定だ」と米国を揺さぶり、二段階で圧力をかける思惑もうかがえる。
最も強硬な対米カードはICBM発射の再開だが、今年5月以降に実施してきた新型短距離弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射、ICBMに用いられるエンジンなどの実験をさらに加速させることが予想される。
また、米韓の専門家が警戒するのが「人工衛星打ち上げ」と称した事実上の長距離弾道ミサイル発射だ。北朝鮮は2021年まで宇宙開発5カ年計画を進めており、「平和利用だ」と主張し強行する可能性は否定できない。米国の北朝鮮分析サイトによると、北西部、東倉里(トンチャンリ)の衛星発射場では、エンジン実験とされる13日の「重大実験」以降も活動が確認されるものの、衛星発射などに即つながる兆候は見られないという。