海外情勢

森林火災が豪州経済を直撃 GDP0.5ポイント下げへ、金融市場にも波及

 大規模な森林火災と過去数十年で最悪の干魃(かんばつ)でオーストラリア経済が疲弊している。記録破りの熱波と強風で火災が終息する兆しは見えておらず、森林火災以外の異常気象の影響も加わり、農業や不動産、観光などさまざまな産業が打撃を受け、金融市場への波及も懸念されている。

 最高気温が史上最高

 人が住む最も乾燥した大陸として知られる豪州は、過去最長となる36カ月連続で気温が例年を上回り、2019年12月中旬には全国平均最高気温が観測史上最高を記録した。2019年は例年より早く森林火災のシーズンに突入しており、11月初めに南東部ニューサウスウェールズ州(NSW)のシドニー郊外で発生した森林火災は猛威を振るい続け、有害な濃い煙霧が同市を覆っている。

 コンサルティング会社のSGSエコノミクス・アンド・プランニングはシドニーの経済規模を豪国内総生産(GDP)の4分の1と見積もるが、火災は市経済への直接的な影響にとどまらず、同市が世界に誇るブランドも傷つけている。

 豪州の国内旅行やクルージングを主催するAJトラベルのゼネラル・マネジャー、リリ・ステファニー氏は「中国人にとってシドニーは『洗肺』の旅行先として有名だが、これほど悲惨な状況を前にすると、一部顧客には他都市の滞在を伸ばすことを勧めている」と明かす。

 建設や貿易にも被害が出ている。大気汚染の悪化で視界不良となり、屋外活動の安全面のリスクから港湾施設や建設現場は閉鎖されている。

 シドニーやブリスベンを覆う煙霧はビジネス中心地の大混乱も招いている。煙でビルの火災報知機が誤作動し、労働者はオフィスから避難させられ、消防車は休む間もなく出動させられている。

 製造業の雇用者団体、オーストラリア産業グループ(AIG)の首席エコノミスト、ジュリー・トート氏は「火や煙が事業に影響を及ぼす事例は枚挙にいとまがない。混乱は深刻かつ多発しており、影響は雪だるま式に膨らんでいる」と話す。

 豪非営利団体(NPO)「クライメート・カウンシル」は、農産物の減少や労働生産性の低下による累積損失が2030年までに190億豪ドル(約1兆4371億円)、50年までに2110億豪ドル、2100年までに4兆豪ドルにも達する恐れがあると予想する。

 シティグループの豪州担当シニアエコノミスト、ジョシュ・ウィリアムソン氏は「こうした出来事はもっと頻発する恐れがあり、豪経済にさらなる衝撃が及ぶ可能性がある」と警鐘を鳴らす。シティグループは日照り続きで農業生産高が2割減れば、GDPを0.5ポイント下押しする可能性があると予想する。

 労働生産性の妨げに

 オーストラリア準備銀行(中央銀行)は猛暑と気温の変動が労働生産性と生産活動を妨げ、長期的な中立金利(景気を抑制も刺激もしない金利水準)に影響を及ぼしかねないと牽制(けんせい)する。

 同中銀は、保険会社による損害請求額の支払い増加や資産のバリュエーション(価値)急変に伴い、金融安定リスクも表面化すると警告している。

 実際に、イングランド銀行(英中銀)のカーニー総裁は気候関連の懸念が資産価格暴落を招く「ミンスキーモーメント」についてくぎを刺しており、スウェーデン国立銀行(リクスバンク)は、鉱業の主要拠点であるクイーンズランド州、西オーストラリア州の二酸化炭素(CO2)排出量の水準が高いことを理由に、両州が発行した債券の保有分を既に売却している。

 世界各地で森林火災の被害が拡大する中、気候変動の議論が高まっているが、モリソン豪首相はパリ協定のコミットメント達成を目指しつつも豪州の主要輸出産品である石炭の販売を増やしたいと表明している。(ブルームバーグ Michael Heath、Jason Scott)

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