海外情勢

カンボジア、冷食「南国鯛」を日本に輸出へ 日系企業が養殖・製造

 カンボジア・カンダル州で、日系企業「レインボープログレス・エンタープライズ」が養殖ティラピアの冷凍食品製造に取り組み、間もなく日本へ輸出を開始する見込みだ。魚を主なタンパク源とし淡水魚の消費量が多いカンボジアだが、養殖は農家の副業や個人事業として営まれており、近代化されているとはいえない。同社の取り組みにはカンボジア政府水産局も「養殖業近代化のモデルにしたい」と期待を寄せている。

 ◆現地の若者を雇用

 レインボーが、首都プノンペンに隣接するカンダル州の養殖場「カンボジアフレッシュファーム」に着工したのは2014年。4.5ヘクタールの土地に20面の池を掘り、成長が早く半年ほどで出荷できるティラピアの稚魚を育てることにした。実際に出荷が実現したのは、3年も後の17年だった。養殖業の経験がなく試行錯誤したことと、「養殖場のある村の人たちとの信頼関係を築きながら進めたため時間がかかった」と、レインボーのカンボジア代表、久保田光広さん(49)は言う。

 養殖業は広い土地を必要とする。村の環境を激変させるだけに、久保田さんは「村人に愛され、利益をもたらす産業にしたい」と考えた。養殖場で村の若者を雇用し、工事を依頼。村人は土地を売った代金で重機のリース業を始めた。まるで「村おこし」で、スピードは遅い。しかし遠回りでも、堅固な生産拠点が将来の安定供給を支えると久保田さんは考えた。

 ようやく出荷が可能になったころ、久保田さんは、衛生機器販売で知られる日本の「サラヤ」がカンボジアで食品加工事業に取り組んでいることを知った。具体的には急速冷凍機を導入し、日本水準の衛生的な環境で冷凍食品を製造することだ。

 久保田さんたちは、ティラピアを急速冷凍して安全で新鮮な状態のまま市場に出すことを考えた。それまでティラピアは、生きたまま市場で販売されていた。急速冷凍なら活け締めの鮮度を保ったまま冷凍食品にして販売できる。「淡水魚は独特の臭みがある」といわれていたが、衛生的で適切な処置をすれば臭みもなく、見た目も食感もタイのようだった。「急速冷凍で滅菌もできるので、解凍すれば刺し身でも食べられる」。久保田さんは、ティラピアを調理しやすい切り身にして冷凍し、「南国鯛」と名付けて本格的な製造と販売に乗り出した。

 「生食が可能」を最大の売りにした南国鯛だが、一気には広まらなかった。刺し身を家庭で食べるのはカンボジア在住の日本人だけだったからだ。ただ、南国鯛の質の高さを理解した日本人の料理人たちが、次々に商品を使ってくれるようになった。フレンチ、イタリアン、和食…。切り身で使いやすく、くせのない南国鯛はプノンペンの一流料理店で利用され、徐々に評判を高めていった。

 ◆イオンの“お墨付き”

 転機は18年10月、日系スーパーマーケット、イオンでの販売開始だった。イオンは14年に大型ショッピングモールをオープン。その中にカンボジアでは初となる近代的なスーパーマーケットを開き、それまで伝統的な市場で買い物をしていたカンボジア人の食生活に大きな変化をもたらした。生産者側からみれば、イオンに商品を置けることは味と品質管理にお墨付きをもらうことと同じだ。こうして南国鯛は、一般消費者にも普及していった。

 国際研究機関ワールドフィッシュセンターによれば、カンボジアには約4万カ所の養殖場があるが、小規模な家族経営がほとんどで平均面積は0.24ヘクタールほど。さらに、育てた魚の多くが隣国タイやベトナムの仲買人に買いたたかれているという。カンボジア農林水産省水産局の養殖担当、ソモニー・タイ氏は、「カンボジアの漁獲量の3分の2は海や河川、湖からの天然資源だ。しかし乱獲、環境汚染などの問題は深刻化しており、養殖業の重要性は高まっている。生産や流通、販売まで全てのプロセスを近代化するためにも、レインボーの取り組みに注目している」と話す。

 久保田さんによれば、水産局の協力もあり、南国鯛の日本への輸出が間もなく開始される見込みだ。12月初めには、サンプルを持ち込んで東京の和食店で試食会を実施。刺し身や昆布じめ、チーズトマト焼き、揚げ物、しゃぶしゃぶなど、さまざまな料理が用意され、いずれも「臭みがなく新鮮」「身がしっかりしていてタイのような味わい」と高い評価を受けた。

 久保田さんは、「品質管理と生産増、カンボジアにはまだ完備されていない冷凍輸送インフラの開拓など、課題は山ほどある。しかし、カンボジアの魚を日本の皆さんに『おいしい』と食べてもらえたことは大きな一歩。工夫と努力を重ね、日本とカンボジアをつなぐ商品に育てていきたい」と話している。(カンボジア邦字誌「プノン」編集長 木村文)

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