海外情勢

タイ軍政続く強権 しぼむ民主主義の期待、王室との関係にも不安要素 (1/2ページ)

 5年半に及ぶ事実上のタイの「軍政」の先行きを、懸念する声が広がっている。政権基盤に揺らぎがあるというのではない。時に独善的とも受け取れる強権的な政治手法に対し、国の内外から疑義の指摘が広がっているのだ。そもそも議会制民主主義とはそりの合わない軍支配ゆえに神経質になっているとの見方もあるが、それだけにはとどまりそうにない。それは何か、権力を手放したときに起こりうる軍そのものの地位転落を恐れているようにも見える。

 怒れる800万人の若者

 タクシン派と反タクシン派との政治対立に介入し、2014年5月に軍がクーデターに打って出たのは、機能しない警察力では対応しきれない国内の治安を維持・回復するためであった。それだけ当時の反タクシン派の街頭活動は破滅的であり、秩序や常軌を全く欠いたものであった。

 権力を奪取したプラユット首相は当初、両派の和解を呼びかけたが、それが非現実的と分かると一気にタクシン派の排除に軸足を移した。その後は、振り上げた拳をどこに下ろすかに腐心。国内外から軍支配への批判の声が上がると、正当化するための「民政復帰」に目標を変更した。

 その後は既報の通りである。選挙に強いタクシン派が二度と政権を取らぬよう、周到な選挙制度を盛り込んだ新憲法を成立。三権分立をしのぐ強い権限を持った憲法裁判所や独立機関を整備した。国民からの関心を失わないよう、経済回廊、鉄道、空港、港湾の各種開発など巨大利権を生むインフラの整備を国王の勅令にも相当する「平和秩序維持団布告」で進めた。

 だが、そのような軍でも一筋縄にはいかないものがあった。一つは、無党派層から生まれた新党「新未来党」に象徴される、選挙権を持ったばかりの怒れる若者たちだった。

 タイの自動車部品大手タイ・サミット・グループの創業家出身の御曹司、タナトーン氏が設立した新未来党は3月の総選挙で81議席を確保、第三党に躍り出た。もっとも、財源を党首個人に頼ったことや功労者や年配者を顧みないスタンドプレー的な政治手法から信頼を落とし、かつての勢いは失われた。タナトーン氏は憲法裁から議員資格剥奪の判決を受け、党も資金の出所を問題とされて解党手続きが進行中だ。

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