国内

「食の達人」を人間国宝認定へ 海外にPR、郷土料理の文化財指定も

 文化庁は、伝統芸能や工芸の分野で高い技術を持つ個人を認定する「人間国宝」(重要無形文化財保持者)制度の対象に、和食の料理人や日本酒造りの職人(杜氏(とうじ))など「食の達人」を追加する検討を始めた。認定時期や具体的な候補は未定だが、日本の食文化のブランド価値を高めて海外にもPRし、訪日客の誘致や食材の輸出拡大につなげたい考えだ。各地に伝わる郷土料理を国の無形文化財に指定することも目指す。

 文化庁に4月、食文化を担当する専門部署を新設し、人間国宝の候補となり得る「食」の職人や伝統技術などの実態調査に着手する。認定の基準づくりも進める。ただ食に関する定義は幅広く、認定時にどういった点を評価すべきかなども見極める必要があり、作業は数年かかる可能性もあるという。

 1950年制定の文化財保護法に基づく人間国宝制度は、歌舞伎や能などの芸能分野と、陶芸や金工といった工芸分野が対象。食文化は含まれていない。しかし2013年に「和食 日本人の伝統的な食文化」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録。17年成立の文化芸術基本法で、国が取り組む施策として「食文化の振興」が明記されたことを受け、対象の拡大に踏み出す。認定者には国が助成金を交付し、技術向上や後継者の育成を後押しする。

 日本人の食生活の洋風志向が進み、若者を中心に「和食離れ」も指摘されている。文化庁は日本の伝統的な食文化の保護、継承のきっかけにもなると期待する。一方、各地の郷土料理については、祭礼や伝統工芸などが指定対象の「重要無形民俗文化財」に追加する方向で検討が進む見通し。具体的にどの地方の郷土料理を指定候補に選ぶかは未定。文化財指定により保護・継承の強化と知名度アップを図り、地方の食文化の活性化や観光振興に生かしてもらう狙いがある。

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 ■「和食」ユネスコ登録で弾み  

 日本の「食」が文化資源として注目されたのは、2013年に「和食 日本人の伝統的な食文化」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたのがきっかけだ。先行して登録されたフランスやトルコと並ぶ“世界的な食文化”に認められたことで、伝統の継承や海外PRへの機運が高まった。

 急増する訪日外国人客への各種民間調査でも、日本の食に対する期待が高い傾向がうかがえる。政府は30年に訪日客を6000万人まで増やす目標を掲げており「観光資源としても最大限活用したい」(文化庁幹部)と意気込む。今後、和食を構成する日本酒や日本茶、しょうゆ、みそといった個別の食材についても無形文化遺産への登録可能性を探るという。

 文化庁は東京一極集中是正に向けた政府機関移転の一環で、21年度までに京都に移転する予定。「京料理」で知られる伝統的な和食文化の中心地に移ることを見据え、食を看板事業の一つとして育てたい考えだ。人間国宝を含む各種制度を活用し、文化の継承や後継者の育成につなげる。

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【用語解説】人間国宝

 国の重要無形文化財に指定された伝統芸能や工芸の各分野で、極めて高度な技術を持つ者として国が認定した個人の通称。有識者でつくる文化審議会が年1回答申し、文部科学相が認定する。死亡すると解除される。現在は歌舞伎女形の坂東玉三郎さんや古典落語の柳家小三治さん、白磁の井上萬二さんら115人が認定済み。技術向上や後継者育成のための費用として、国が1人当たり年200万円の特別助成金を交付している。

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