高論卓説

前途多難な米中交渉 中国が「資本移動の自由」要求のめない理由

 構造問題先送り 「既得権益集団」が阻害

 今月15日、米中貿易協議で「第1弾」の合意がなされ調印が行われた。今回の合意では中国が今後2年間で2000億ドル(約22兆円)相当の米国産品やサービスの購入を増やすことを確約するとともに、毎月検証し、違反した場合、再度関税を課すなどの懲罰規定も設けられた。また、これをもって米国は1120億ドル分の中国製品を対象にした制裁関税「第4弾」の上乗せ税率を15%から7.5%まで引き下げるとしている。ただし、既に関税対象になっている3700億ドルには全て関税が残ることになった。

 今回は、あくまでも額の問題が中心であり、構造改革など本質的な合意とは程遠いものである。合意に至った理由として、中国側にはアフリカ豚コレラの蔓延(まんえん)による豚肉不足がある。価格上昇により米国産の畜産物や農産物の輸入を再開するしかなかった。米国側は大統領選を控えており、トランプ大統領支持の農家などへのアピールがあったとされる。その意味で相互の利害が一致した。また、知的財産権に関しては国際社会からの圧力が強く、合意以前の問題として受け入れるしかなかった。

 しかし、「第2弾」以降の構造改革に関しては前途多難であり、合意に至る可能性は限りなく低い。主に争点になっているのは(1)不正な産業補助などの廃止(2)為替の最終的自由化と通貨切り下げの禁止および資本移動の自由-の2点。だが不正な産業保護の廃止は、国有企業の否定であり、現状の中国共産党の一極支配による開発独裁型経済を崩壊させる。

 中国は共産党と国有企業が一体となり、政府支援による資金力と規模のメリットを最大限活用し、国際社会で優位なビジネスを行ってきた。その代表例が「一帯一路」ということになる。また、同時にそれは党と幹部たちの利権になっている。そして、(2)の為替の最終的な自由化と通貨切り下げの禁止もドル不足に陥りつつある現状を考えると難しい。中国は送金規制などにより外貨の流出を防いできた。管理変動相場制で為替をコントロールし、自らに有利なレートを作り上げてきた。これを完全に自由化した場合、外貨の流出が深刻化し、国内資本の海外逃避が本格化する恐れがある。

 現状、外国企業が中国国内で利益を出しても、送金規制などにより国外への持ち出しが難しい。このため、外国企業は利益を中国国内に再投資するしかなく、これが外国企業の撤退できない理由にもなっている。既に中国の人件費は上昇し、ベトナムなどへの工場移転が始まっている。米国はECRA(輸出管理改革法)などにより先端技術の中国への移転を禁止する予定であり、華為技術(ファーウェイ)問題に代表されるように米国と西側市場からの中国排除を進めている。

 この状況で資本移動の自由を認めれば、中国からの撤退が本格化しかねないのである。それは同時にキャピタルフライトという形で中国のバブルを崩壊させるだけでなく、人民元そのものの価値を大きく低下させることになる。当然、党は自らの崩壊原因となる要求をのめるわけもない。しかし、これは中国自身が改革開放による西側社会への参加、WTO(世界貿易機関)への加盟、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)入りする際に繰り返し、国際社会に公約してきたことである。言い換えれば、これまでさまざまな理由をつけて実現してこなかったことこそが最大の問題であるといえる。

【プロフィル】渡辺哲也

 わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。愛知県出身。

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