海外情勢

イラン国会選、反米強硬派巻き返し 大統領選にらみ世論引き締め

 【テヘラン=佐藤貴生】トランプ米政権との対立が続くイランで21日、国会(一院制、定数290)選挙が行われる。今回の選挙では、立候補を届け出た保守穏健派や改革派が多数失格となっており、反米の保守強硬派が国会での勢力を巻き返すのはほぼ確実。保守穏健派のロウハニ大統領の求心力がいっそう弱まり、対イラン圧力を強める米国との対立がさらに深まる見通しだ。

 首都テヘラン市街では、米軍に1月初旬に殺害された革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の看板が多く掲げられている。同隊は最高指導者ハメネイ師に直属する反米保守の牙城だ。司令官を「殉教者の象徴」と位置付けるイスラム教シーア派の指導層の狙いが表れている。

 ロイター通信によると、選挙には1万6000人以上が立候補を届け出たが、出馬が認められたのは約7150人と半数以下にとどまった。イランでは、ハメネイ師が指名するイスラム聖職者らからなる「護憲評議会」が立候補者の適格性を事前審査する権限を持つ。今回、審査での失格者が最も多かったとされるのが、ロウハニ師率いる保守穏健派や改革派の陣営だ。

 イランでは昨年11月、経済低迷の中でガソリンの値上げを機に大規模なデモが起きた。今年1月にウクライナ旅客機が墜落した際には、政府が撃墜の事実を隠そうとしたとしてデモが再燃。どちらも批判の矛先が政権からイスラム教シーア派の統治体制そのものに向かった経緯がある。社会変革や国際協調に前向きな保守穏健派や改革派の出馬を制限する背景には、体制批判の本格化を封じる指導部の思惑も見え隠れする。

 こうした情勢の下、多くのテヘラン市民は投票をボイコットする姿勢を示す。書店経営の男性(69)は「選択肢がなく、選挙とは呼べない。変化の可能性もないのに投票に行く意味がない」と話した。

 今回の指導部の措置は、来年実施予定の大統領選をにらんだものだとの見方も多い。2016年の前回国会選は、前年にロウハニ師が主導する欧米など6カ国との核協議が最終合意に達したこともあり、保守穏健派が躍進した。しかし、米政権が核合意から離脱して制裁を再開したことでロウハニ師の求心力は低下。米国への不信感を強める指導部は、穏健路線からの転換を印象づけ、世論の引き締めを図っているものとみられる。

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