専欄

習近平が求めたものは“もろ刃の剣” 制度の優位性を強調する中国

 元滋賀県立大学教授・荒井利明

中国の武漢(湖北省)で「原因不明の肺炎」患者がみつかってから3カ月になる。中国の専門家は、4月末までには新型肺炎の感染を基本的に抑え込めると語っており、事態は改善に向かいつつあるようにみえる。

 この間、中国の指導者やメディアは中国の制度の優位性を強調し、新型肺炎との「人民戦争」に必ず勝利すると主張してきた。

 昨年10月に開かれた共産党の中央委員会総会(4中総会)の決定は、中国の国家制度と国家統治システムには「顕著な優位性」があると述べ、13項目の優位性を指摘した。

 その中で最初に挙げられている優位性は、党の集中的・統一的指導、および党の科学的理論を堅持することで、政治的安定が維持され、国は社会主義に向かって前進できるということである。つまり、党の指導があるからこそ、経済的発展や政治的安定が確保されるというのである。

 習近平は最高指導者になった2012年秋以降、党の指導の強化、とりわけ党員、幹部がその言動を党中央および習近平と一致させるよう求めてきた。それはそれ以前の、党中央の指示、方針が地方にまで徹底しなかった胡錦濤時代への反省に基づくものでもあった。

 だが、習近平が求めたものはもろ刃の剣だったといえよう。党中央、あるいはトップの習近平に従うことを強調すればするほど、地方・末端の幹部からは自主性、主体性が失われ、中央・上だけをうかがいみることになりかねない。

 党の集中的・統一的指導を優位性と自賛できるのは、中央の指導者は賢明で、正しい方針・政策を打ち出すことができるということが前提になっているからである。たとえ中央の指導者が賢明であっても、地方・下から正確な情報が上がってこなければ、正しい方針・政策を決めることはできないだろう。

 3月1日に発行された党機関誌「求是」(第5期)は、習近平が2月5日に行った演説の一部を掲載した。その中のこれまで未公表だった部分で、習近平は新型肺炎との闘いに触れて、「一部の地方や部門は突然の感染拡大に直面してどうしていいか分からなくなり、打ち出した対策は朝令暮改のいいかげんなものだった」と述べている。

 湖北省と武漢市のトップが2月中旬に更迭されたが、制度の優位性を誇るだけでは、同様の事態が繰り返されるだろう。(敬称略)

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