国内

原発再稼働停滞 見えぬ光明 震災9年、電力安定供給と環境の両立苦慮

 東日本大震災から11日で9年が経過する。震災は日本経済に多大な影響を与えたが、中でも東京電力福島第1原発事故は日本のエネルギー政策に揺さぶり続けている。政府は現在も原発を主要な電源と位置づけているが、事故後の原発再稼働は停滞したまま。一方で国内では石炭火力発電所の新設計画が次々と持ち上がっている。時間が止まったかのような福島第1原発周辺の風景からは、電力の安定供給と環境を両立させる道のりの険しさが浮かび上がる。

 福島第1原発が立地する福島県大熊町。2月下旬に訪れると、そこには震災から時間が止まったままの風景があった。福島第1原発へと向かう国道6号の沿道に人影はない。周辺の家電量販店、自動車ディーラーの建物内は空で、畑では除染作業が続いていた。

 道路上に掲げられた放射線量を表す電光掲示板が示す数値は毎時1.544マイクロシーベルト。除染作業が続く福島第1原発での最大約0.2マイクロシーベルトと比べると、原発の敷地外の方が事故の影響がより色濃く残っているといえる。東電の役員の一人は「ほぼ毎月来ているが、この惨状を見るたびにさまざまな思いが込み上げる」と話した。

 「石炭火力頼み」

 福島原発事故によって、原発をめぐる状況は一変し、日本のエネルギー政策に影を落とす。政府は現在も原発を「安定電源」と位置付け、2030年度の電源構成では原発の比率が20~22%になるとしている。しかし、見通しの実現には30基程度の原発稼働が必要とされる中、震災後に再稼働が実現した原発はわずか9基。テロ対策施設の完成遅れや定期検査などで今後、再稼働した原発も再び停止される見通しとなっている。

 こうした中、日本では石炭火力の新設計画が相次ぐ。昨年12月には、九州電力の松浦火力発電所2号機(長崎県松浦市)が運転を開始。今月2日には東北電力が新設した能代火力発電所3号機(秋田県能代市)が稼働した。運転開始までの準備手続きが原発よりもはるかに少ない石炭火力が原発再稼働停滞で空いた穴を埋めている構図だ。

 石炭は他のエネルギー資源に比べて価格が安く、長期的に安定した調達が見込める。資源小国の日本にとって、石炭火力はエネルギー安全保障上、重要な電源だ。一方で、石炭火力は温暖化物質である二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、「悪者」扱いされることも増えている。日本で発電される電力のうち3割超が石炭火力で賄われる「石炭火力頼み」ともとれる構図には、海外から冷ややかな視線も送られている。

 行き場のない処理水

 福島第1原発の敷地内には1000基もの巨大なタンクが所狭しと並んでいる。高さと直径がそれぞれ約12メートルもある円筒形の構造物の中身は、原子炉内で溶けた燃料などを冷やした汚染水を浄化処理した水だ。このままタンクが増え続ければ「発電所のスペースに余裕がなくなり、廃炉作業に支障が出る可能性がある」(東電関係者)という。

 だが、処理水の海洋放出には風評被害を懸念する地元漁業者らの反対があり、処分方法は決まっていない。行き場のない大量の水は、原発事故の影響でがんじがらめになったエネルギー政策を象徴しているかのようにみえる。(飯田耕司)

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