高論卓説

世界に広がるマスク外交 業者と中国頼みに反省の余地

 必要ならばいつでもドラッグストアで買えばいいと思っていたマスクが、どうしても手に入らない。いらだつ人も多いはず。新型コロナウイルスの感染拡大で、マスクは戦略物資になり、送る方も国益を考慮しての「マスク外交」を展開する時代に入っている中、日本は守勢に立たされている。

 現在、世界最大のマスク生産力を有するのは中国である。中国メディアによれば、もともと日産1億枚以上の生産能力があったが、1月以来、政府の求めに応じて2億枚の生産力まで高めた。現在中国国内の需要は賄われており、余ったマスクを海外の困っている国に「援助」する行動が目立つ。

 日本政府は3月28日、中国で緊急調達した医療用マスク1000万枚を日本に広州から貨物機で空輸した。医療用といっても実際は市販の不織布三枚重ねのマスクである。広州総領事館は「業者を通じて調達した」と述べているが、中国政府の協力がないと大量のマスクの調達、国外輸送は難しい。

 インターネット企業のアリババ、スマートフォンのOPPO、旅行サイトTrip.comなどの大手中国企業からもマスクの日本への寄付が活発化している。愛知県豊川市が以前中国に送った4500枚のマスクの返却を求めると、中国から「10倍返し」で5万枚のマスク寄贈が発表されてニュースになった。

 こうしたマスク外交は、中国の習近平国家主席が「健康のシルクロードを作りたい」と表明したことへ呼応している部分もあるとみられる。日中友好に活用されるだけではなく、新型コロナ流行の中心地である欧州の国々にも中国からのマスク支援は活発に行われている。

 一方、マスク不足に先手を打ったのが台湾だ。人口2300万人の半数が毎日マスクを利用すると仮定して日産1000万枚を目標に据えた。供給が不安定な中国輸入中心から自主生産に切り替えて、マスクの生産能力を1カ月かけて従来の想定以上に当たる日産1500万枚まで引き上げた。マスク生産機器を政府が購入し、業者に無償提供した上で全量を買い取り、国民に対しては1週間の入手枚数を決めて配給する戦時体制並みの対応をとっている。

 生産余力が生じ、蔡英文総統は1日、「困っている国」への1000万枚の海外支援を表明。米国とも共同声明を発表し、米国が台湾へ防護服30万着を提供する見返りに、台湾から10万枚のマスクを米国に送ることが表明された。マスク外交は各国の国民の関心も高いだけに、影響力強化に、有効な方法になるだろう。

 現在、日本ではなおマスクが手に入りにくく、毎朝ドラッグストアの前で行列ができ、医療現場ですら不足が深刻化している。

 菅義偉官房長官は4月に月産6億枚に増えると述べているが、日産に直せば2000万枚に過ぎない。日本の人口からすれば、不足分ははるかに大きい。業者の自助努力と中国頼みという日本政府のマスク政策は反省の余地があるだろう。全世帯への布マスク2枚の配布も評判はいま一つだ。

 マスクの感染予防効果は限定的だが、拡大防止への効果は大きいとされる。無症状の感染者が多いのが新型コロナの特徴で、感染防止の重要性がクローズアップされる。マスクの習慣化を求める声は強いが、肝心のマスクがなければ何もできない。マスクが戦略物資として重視される時代は続きそうで、マスク外交の注目度は今後も上がっていくだろう。

【プロフィル】野嶋剛

 のじま・つよし ジャーナリスト。大東文化大学特任教授。朝日新聞で中華圏・アジア報道に長年従事し、シンガポール支局長、台北支局長、中文網編集長などを務め、2016年からフリーに。『ふたつの故宮博物院』『銀輪の巨人 GIANT』『台湾とは何か』『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』など著書多数。

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