海外情勢

イスラム教のラマダン 集団で食事・礼拝「3密」に厳戒

 イスラム教の断食月(ラマダン)が23日ごろから世界各地で始まる。宗教上の義務であると同時に、日没後の食事や礼拝をともにすることで信徒同士の連帯が強まる期間だが、新型コロナウイルスが猛威を振るう今年は、感染拡大の防止とどう両立させるかでイスラム諸国の頭を悩ませている。(シンガポール 森浩、カイロ 佐藤貴生)

 クラスター化懸念

 「モスク(イスラム礼拝所)に行くことなく、家族と一緒に家で礼拝を行ってほしい」。ムスリム(イスラム教徒)が多数を占めるマレーシアではムヒディン首相が10日、ラマダン期間中の礼拝について国民にこう呼びかけた。

 ラマダン中、ムスリムの多くは日の出から日没まで飲食を断ち、夜にはモスク(礼拝所)などで集団礼拝を行う。ムヒディン氏は、これが感染拡大につながることを警戒している。

 マレーシアでは2月27日~3月1日に首都クアラルンプールのモスクで行われたイスラム教の集会が大規模クラスター(感染集団)となり、東南アジア各地にウイルスを拡散させる結果を招いた。「同じ例を繰り返したくはない」(政府幹部)との危機感から、ムスリムが断食後の食事や買い物を楽しむ夜市の禁止も決まった。

 体力低下リスク

 断食行為そのものが、感染リスクを高めるとの懸念もある。

 中東関連のニュースサイトによると、アルジェリアの政治家は最近、空腹で体力が落ちるため断食を中止すべきだと主張。これに対し、SNS上には「(政治家ではなく)イスラム教や医学の専門家が判断する宗教上の問題だ」といった書き込みが相次いだ。

 宗教指導層の間でもさまざまな意見がある。

 スンニ派最高学府のアズハル大学(エジプト)は、「感染の危険性を高めるとの医学的証明がない限り、断食はやめるべきではない」とした上で、世界保健機関(WHO)と協議を続けているもようだ。

 また、イラクのシーア派最高権威シスターニ師は「日中に水を頻繁に飲んで感染防止に努めるべきだ、と(医師などが)いうのなら断食の必要はない」とし、一定の例外を認める意向を示した。

 消費に冷や水

 ラマダンは、宗教心が強まると同時に、1年で最も消費が高まる時期でもある。

 しかし、中東最大の人口を誇るエジプトでは、集団行動の自粛や夜間の外出禁止といった措置が取られており、市民が楽しみとする断食後の買い物が冷え込むのは必至。他国も同様の影響は避けられそうにない。

 また、エジプトではこの時期を狙って多くのテレビドラマやCMが制作されるが、人混みや夜間の撮影ができないなどの支障も出ている。出演を見合わせる俳優もいるといい、俳優団体トップのアシュラフ・ザキさんは電話取材に「期間中の放映を予定していたドラマの7割は中止か延期になると思う。ロケ現場には医療チームを同行している」と話した。

 帰省で移動活発化

 世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアでは、ラマダン明けの休暇期間は人の移動が活発化する。昨年は約1950万人が都市部から故郷に帰省した。

 インドネシア大学は、帰省者数が例年通りなら、首都ジャカルタがあるジャワ島の新型コロナ感染者は7月までに100万人に達すると予測。政府内では休暇中の移動禁止措置を求める声が上がったが、ジョコ政権は経済的な影響も考慮して見送った。

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