論風

「移動の不自由」時代へ 新たなインフラ構築必要に (1/2ページ)

 国境を超えて動くものとしては「モノ」「ヒト」「カネ」、そして「情報」(順不同)が挙げられてきた。最近はヒトに付随するものとして「ウイルス」が、「情報」の中で異常増殖するものとしては「フェイク(虚偽)情報」が大きな負の要素になっている。(国際通貨研究所理事長・渡辺博史)

 さまざまなブレーキ

 この数十年、移動への制約の減少、処理の迅速化が顕著にみられたこれら各要素の「移動の自由」に対して、野放図なグローバリゼーションへの反省、抵抗という構図で、さまざまなブレーキがかけられ始めてきた。「貿易制限+懲罰的関税の賦課」「入国管理の厳格化+市民権授与の消極化」「資金洗浄(マネーロンダリング)対策の強化+通貨利用の制限」「情報の国外転送禁止+プライバシーの再強調」といったものがそれぞれにかかるブレーキの形態の一部である。

 この移動の関連で、今後考慮すべき事項の第1は「迅速性」というか「時間の短縮」である。「モノ」「ヒト」の動きでは、昔ならば、「年」とはいわないまでも、「月」「週」単位での所要時間が普通であったが、運送手段の高速化、コスト低下の結果、今や、「日」「時間」という単位にまで縮まっている。「カネ」「情報」の分野では、それは「秒」ではなく、その何億分の一、何兆分の一、というところまで短くなっている。その結果として起こっていることは、「モニタリング」機能の不完全である。異常な動きを感知してから、それを判断し、必要な場合に止めるというプロセスが、それこそ「アッ!」という間に進められなければいけないのだが、そこには限界がある。公的セクターでは、「認識」し、「判断」し、対策を「立案」し、「法制化・予算化」し、それを「執行」するという各段階でのタイムラグが不可避であるため、市場を介した私的セクターの方が迅速な対応ができるといわれた時期もある(私的セクターも大組織になってくるにしたがって動きが遅くなって来てはいたが)ものの、今や、私的セクターの最先端でも状況の変容に対処できないという高速時代になってきている。

 すなわち、自由な行動が「悪をもたらさない」ようにするために必要な「モニタリング」ができない、多少楽観的にいえば、できにくい状況になってしまっているのである。それを前提にすれば、「モニタリング」など生ぬるい、実効的ではない、したがって全面禁止、百歩譲っても許可を受けた場合にだけできるという規制にしなければならないという論調が高まるのは、楽しくはないが、自然である。

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