専欄

全人代キーワードは「民生」 コロナは“政治の基本”再認識するきっかけに

 元滋賀県立大学教授・荒井利明

 例年より2カ月半遅れて先月22日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、会期を例年より5日前後短縮して28日に閉幕した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で異例ずくめだった今大会のキーワードの一つは、「民生」(人々の生活)である。

 大会初日の李克強の政府活動報告も例年より短く、近年の李克強報告の半分強の約1万字だった。その短い報告中、出現回数の増えた語句の一つが「民生」で、18回も登場した。昨年の李克強報告では11回だった。「民生」に関連して、「雇用」の出現も増えた。

 習近平は大会期間中、湖北省や内モンゴル自治区などの分科会討議に参加し、建設であれ、改革であれ、その「根本の目的は人民がよい生活を送ることにある」と強調した。

 また、「人民に幸せをもたらすことが最も重要な政治であり、経済・社会の発展はすばらしい生活を求める人民の需要を満たすためである」とも語った。中国における主要矛盾は、「人民の日増しに増大するすばらしい生活への需要と、不均衡で不十分な発展との矛盾」とされており、習近平発言はこの主要矛盾を踏まえたものでもある。

 習近平政権は今年、「小康(ややゆとりのある)社会」を全面的に実現するとして、今年の国内総生産(GDP)を2010年のGDPの2倍に増やすと国民に約束している。そのためには今年の経済成長率は5%台後半でなければならないが、これは事実上、不可能とみられる。

 感染拡大の影響などが不確定なため、李克強報告では今年の経済成長率の具体的目標が設定されなかった。公約実現の不可能なことが明らかになる数字を提示するわけにもいかなかったのだろう。

 政治の基本は人々の生命と生活を守ることにあり、各国に拡大したコロナ感染は、そのことを再認識するきっかけになったといえよう。だからこそ各国は今、感染制御と経済の立て直しの両立に頭を悩ませており、中国も感染制御に一定の成果が見え始めて以降、感染防止を前提にしつつも、経済活動の再開、発展に力点をシフトしている。

 全人代における「民生」の強調は政治の基本を考えれば当然だが、感染拡大が原因とはいえ、今年中の小康社会の全面的実現が困難になった今、「民生」の強調は政府にとって国民の支持を取り付ける上でも不可欠だろう。(敬称略)

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