海外情勢

金与正氏が対韓工作主導 「対話の象徴撤廃」指示…文政権揺さぶり

 【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の朝鮮労働党統一戦線部は5日夜、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長を非難するビラの散布に反発し、北朝鮮の開城(ケソン)に南北が設置した共同連絡事務所を「まず断固、撤廃する」と予告した際、正恩氏の妹の金与正(ヨジョン)党第1副部長の指示だと明らかにした。報道官談話として朝鮮中央通信が報じた。

 与正氏は4日の談話でビラ散布を批判し、事務所の閉鎖だけでなく、経済協力事業の開城工業団地の完全撤去や南北軍事合意の破棄も示唆していた。報道官は「対南事業を総括する(与正)第1副部長が警告した談話ということを胸に刻むべきだ」と主張。検討に着手するようにとの与正氏の指示に従って順次、実行に移す考えも示した。

 与正氏が対南事業を総括する立場にあると、北朝鮮が公表するのは初めて。2018年の南北首脳会談の合意で開設された連絡事務所という「対話の象徴」が閉鎖の危機にある上、首脳間の橋渡し役として、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が信頼を置いてきた与正氏が強硬姿勢を強めたことは、文政権にとって二重の衝撃といえそうだ。

 与正氏の警告を受け、文政権は即座に、ビラ散布を含め、軍事境界線付近で南北間の緊張を高める行為を防ぐ法律案の準備を明らかにし、大統領府高官が「百害あって一利なし」とビラ散布を批判するなど迎合姿勢を見せた。北朝鮮は、文政権は強く揺さぶるほど譲歩を引き出せると判断した可能性がある。法制化の動きに韓国内では「表現の自由の侵害」との反発も高まっており、韓国社会の分断を促す狙いも読み取れる。

 文大統領は1950年代の朝鮮戦争の戦死者らを追悼する「顕忠日」の6日に演説したが、北朝鮮問題には具体的に触れなかった。

 一方、北朝鮮は報道官談話で、飛来するビラについて「回収し続けて疲労に悩まされてきた。耐え難い」と言及。ビラによる批判が北朝鮮体制を脅かしている事実を認めた格好だ。「われわれも南側が大いにくたびれることを準備している」とも予告しており、今後、軍事的挑発の度合いを高めていく可能性がある。

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