海外情勢

ブラジル大統領無策で混乱 コロナ拡大 固定支持層が過激化

 ブラジルの新型コロナウイルス感染者数が100万人を超えた。感染拡大が止まらない理由の一つには「ただの風邪」と脅威を軽視し、対策をほぼ何も取ってこなかった右翼ボルソナロ大統領の姿勢がある。政府の対応をめぐって世論の分断は広がり、コロナ禍の収束は見えない。

 「息子の墓を踏みつけられているような気がした」。4月に息子のウゴさん(25)を新型コロナ感染症で亡くしたリオデジャネイロのマルシオ・ドナシメントさんは、地元メディアに無念な胸中を語った。

 6月11日にリオのコパカバーナ海岸で市民団体が政府の無策に抗議し、砂浜に犠牲者の墓に見立てた十字架100本を立てた。それをボルソナロ氏の支持者が乱入し引き抜いたのだ。

 新型コロナ対策をめぐりボルソナロ氏への批判が強まるにつれ、支持者はさらに過激化。各州当局の感染者や死者の集計に疑問を呈する同氏の「病院に忍び込み、ベッドが実際に患者で埋まっているかを撮影してこい」との呼び掛けに応じ、支持者らが各地の病院に侵入する事態も起きている。

 世論調査会社ダタフォリャによると、5月末の政権支持率は33%。不支持は43%で増加傾向だが、支持率はこの1年は3割前後で一定している。ボルソナロ氏は、この固定支持層をつなぎ留めるために極端な姿勢を取り続けているとみられる。

 同氏は商業活動規制などの感染対策を実施する州知事や市長を批判し、激しく対立してきた。地元政治学者のアンドレイ・ロマン氏は「最初は事態の深刻さを軽視していただけだったが、途中から政治的な計算が働くようになった。経済崩壊の責任を取りたくないがために、政敵に転嫁するようになった」と分析する。

 最高裁が4月、規制実施の権限は各自治体にあると判断したため、ボルソナロ氏は口出しできない状況になっている。「最高裁の決定によって、感染症との闘いは全て州知事や市長が受け持つことになった」。ボルソナロ氏は6月初め、ツイッターで責任を放棄する姿勢を改めて示した。

 感染症医のフェルナンド・ボザ氏は「政府は当初から必要な対策を取らず、州知事らに責任を押しつけた。両者の連携がないのは残念なことだ」と述べ、8月まで感染拡大がピークを迎えない可能性があると指摘した。(サンパウロ 共同)

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