ジャカルタレター

黒幕は警察? インドネシアの民主主義覆い隠す闇

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いているインドネシア。ジャカルタでの感染は少しずつ収まっている気配だが、東ジャワでの感染が広がっているという。新型コロナに関しては予断を許さない状況であるが、今回は、民主主義のさらなる後退を感じさせる事件を取り上げてみたい。

 「実行犯の弁護士」

 既に3年以上も前になる2017年4月11日、汚職撲滅委員会(KPK)の捜査官であるノベル・バスウェダン氏がモスクでの朝の礼拝を終えた帰宅途中、バイクに乗った2人組によって顔に硫酸をかけられ、左目を失明するという事件が発生した。ノベル氏は当時、「E-KTP」と呼ばれる住民登録証電子化事業に関わるインドネシア最大の汚職といわれた事件を担当していた。

 同11月、国会議長だった与党ゴルカル党のスティヤ・ノファント党首(当時)がE-KTPに関わる汚職容疑で逮捕されたが、ノベル氏の事件は、真相究明のための特別チームまで結成されたものの何の進展もなく時が流れた。政治家の指示を受けた警察が事件の実行犯として関与したと当初から疑われており、警察が事をうやむやにすべく解決を渋っているといわれてきた。

 実は、ノベル氏がつかんでいた情報はE-KTPに関わる汚職だけでなく、現在国家情報庁の長官で今も警察組織に絶大な影響力を持つブディ・グナワン氏や、国家警察長官から現在内務大臣を務めるティト・カルナヴィアン氏らも関与したとされるさまざまな汚職や警察利権をめぐる数々の不正の真相であり、警察としてはどうにかしてノベル氏の存在を消したかったというのだ。

 実際、ノベル氏に硫酸をかけた実行犯として19年12月26日、現職の警察官2人が逮捕された。このこと自体にも驚かされたが、何よりも衝撃が走ったのは今年6月11日の判決に対してであった。失明までさせた実行犯の刑罰は、禁錮刑1年というあまりにも軽い刑だったからだ。今回の裁判では、警察、検察が「実行犯の弁護士のようだった」と揶揄(やゆ)されており、ソーシャルメディアでは判決をジョークとして扱っているくらいだ。

 都合悪ければ消す

 この事件は、今回の判決で決着したとして、本来解明されなければならない大きな闇は覆い隠されて終わる可能性がある。真相究明を諦めていないノベル氏は、実行犯は単に身代わりになっているだけであるとして2人を釈放するよう訴えている。

 多くのインドネシアのメディアや市民社会は、汚職撲滅委員会の捜査を、失明に至る暴力によって肉体的にも精神的にも妨害し、犯人を仕立て上げ首謀者の都合のいいように事実をねじ曲げているとして、判決内容は民主主義の根幹を揺るがしかねないものであると危惧している。

 都合が悪ければ敵を消してしまえばいいという発想は非民主主義的であり、もし、仮に警察が組織立って行っていたならば民主主義国家とは呼べない。民主化の後退が懸念されている中で、この事件は改めてインドネシアの闇を感じさせるものであった。(笹川平和財団 堀場明子)

 「ASEAN経済通信」 https://www.asean-economy.com/

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus