海外情勢

米政権は中国へ妥協せず 大統領選前に「負の遺産」清算図る

 【ワシントン=黒瀬悦成】トランプ米大統領は14日、香港で施行された「香港国家安全維持法」(国安法)に対抗して香港自治法を成立させたほか、香港への優遇措置を撤廃する大統領令を出し、中国に厳然と対処していく姿勢を一層鮮明にした。トランプ政権は13日、中国による南シナ海での主権主張を歴代政権として初めて明確に否定するなど、今年11月の大統領選もにらんで、オバマ前政権などから引き継いだ対中政策の「負の遺産」の清算を図っていく考えだ。

 トランプ氏が出した大統領令は、国安法の策定や執行に関与した人物や、香港の民主制度や自治を侵害した外国人について、米国内の資産を封鎖すると明記したほか、香港への重要技術の輸出制限、香港の旅券所有者への優遇除外、米政府による香港の法執行機関への教育訓練の停止などが盛り込まれた。

 トランプ氏の対中政策をめぐり、同氏に批判的な勢力などの間では、1月に署名された米中貿易合意の維持を視野に、香港や南シナ海など、中国が「核心的利益」に位置付ける懸案に関し決定的な対立を回避するとの見方が根強かった。

 しかし、トランプ氏は14日の記者会見で「現政権よりも中国に厳しい態度を示した政権はなかった」と強調。中国の習近平国家主席とも「会談の予定はない」と述べ、「蜜月関係」の凍結を事実上宣言した。

 トランプ氏は中国への態度を全面的に硬化させた理由について、14日のCBSテレビの番組で「貿易合意が成立した途端、中国は新型コロナウイルスで米国に打撃を与えた」と指摘し、中国が初期段階で感染を隠蔽したことが、世界に拡大する決定打となったとの認識を示した。

 米中の「第2弾」貿易交渉について、トランプ氏は「興味はない」とも語っており、対話による関係修復は当分困難な見通しだ。

 トランプ氏は中国問題を大統領選の主要争点に据え、民主党候補指名を確実にしたバイデン前副大統領を「親中的だ」として攻勢を強める構えだ。

 実際、バイデン氏が副大統領を務めたオバマ前政権は南シナ海での中国による覇権的行動に毅然とした対応を示さず、トランプ政権下に積極的に行われている「航行の自由」作戦の実施頻度も極めて低かった。

 知的財産の窃取などを目的とした中国のサイバー攻撃についても、オバマ前大統領は2015年の米中首脳会談で互いに攻撃を自制するとの「紳士協定」を結ぶにとどまり、中国に付け入る隙を与えた。

 米国で中国に対する脅威認識は党派を超えて共有されている。トランプ氏は、中国との関係が一層悪化したとしても国民の理解を得られるとの考えから、今後もあらゆる分野で対中圧力を強めていく構えだ。

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