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村に根付くか、自動運転車 秋田で初のサービス、課題はコスト

 秋田県上小阿仁村で昨年11月、自動運転の電気自動車をバスのように利用できる有料サービスが、全国で初めて始まった。「便利だ」と喜ぶ住民がいる一方、課題は運営コスト。運行には緊急時などに操作する乗務員が必要で、自動運転の利点を十分に生かしているとは言い難く、根付くかは未知数だ。

 ◆利用者徐々に増

 6月中旬、集落の停留所から、石上アサさん(85)ら4人が自動運転車両「こあにカー」に乗り込んだ。友人同士で道の駅に昼食をとりに行くところだといい、「1人暮らしで足がない私にとっては本当に便利な存在」と笑顔を見せた。

 車は7人乗りの電動ゴルフカートで、道路に埋め込まれた電磁誘導線に沿って走る。平均時速12キロと、ゆっくり進む自転車くらいの速さ。交差点での再発進の際などは乗務員が運転する。運賃は200円。平日午前に定期便が1便走るほかは、電話による予約運行だ。村民の買い物の中心となる道の駅「かみこあに」を拠点として集落や役場、郵便局、診療所などを巡る。当初は低調だった利用者も徐々に増え、3月には、当面の目標としていた1日15人を上回るようになった。

 サービスを導入したのは、中山間地での交通手段の整備を目指す国土交通省。背景には、高齢化に対する危機感がある。

 上小阿仁村は、65歳以上の高齢者が人口の約53%(5月末時点)を占める。集落にスーパーはなく、バスの本数も少ない。「車を運転できなくなったら足がなくなる」と不安の声も上がる。

 国交省は、同様の課題を抱える全国の中山間地18カ所で、2017年から自動運転の実証実験を行ってきた。このうち最初に運営体制が整った上小阿仁村が、実用化の第1弾となった。

 政府は25年度をめどに、中山間地をはじめ全国40カ所以上で自動運転サービスの展開を目指す。本年度は福井県永平寺町で、鉄道の廃線跡を利用したサービスを導入するとしている。

 ◆警備員の配置必要

 課題はコストだ。上小阿仁村では住民から走行ルートの拡大を求める声が上がるが、地面に電磁誘導線を敷く初期費用がかかる。安全のため乗務員が必要で、自動運転で期待される低コストでの運行にも限界がある。国の補助金なしには運営できないのが実情だ。

 走行コースのうち一部区間では、乗務員が操作しない完全な自動運転を実施しているが、一般車両が入ってくるのを防ぐ警備員の配置が必要だ。

 サービスを運営するNPO法人上小阿仁村移送サービス協会の萩野芳紀代表は「改善の余地はある」と認める一方、「自分の集落にも来てほしいとの声が多く、手応えを感じる」と話す。「こうしたサービスは将来的にごく普通の光景となるはず。その先駆けになりたい」と力を込めた。

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