海外情勢

インドで出稼ぎ労働者“漂流” 大都市脱出も戻れず…干上がる貧困世帯

 インドの大都市部で収束の兆しが見えない新型コロナウイルスへの感染を恐れ地方へ流出した出稼ぎ労働者が元の職場に戻る見通しが立たないでいる。地方政府は移住者に仕事を紹介する経済刺激プログラムを打ち出しているものの、インド経済が過去40年余りで初のマイナス成長に陥る中で十分な職はなく、政治情勢は一層不安定さを増している。

 干上がる貧困世帯

 インドでは3月から5月のロックダウン(都市封鎖)期間中に約1000万人の出稼ぎ労働者が大都市から脱出した。同国が少しずつ経済活動を再開する中で、波紋は国内全域に広がりつつある。都市では労働力不足から感染拡大前の稼働率に戻ることは望めず、地方では都市で働く人からの送金停止で、貧困世帯の暮らしが一層悪化し、地方政府の財政負担増が懸念されている。

 ムンバイを拠点とする調査・支援団体、インド・マイグレーション・ナウ創始者のバルン・アガルワル氏は「短期間の雇用で働く季節労働者は多くが低いカースト(階層)や部族の出身で、生活基盤が脆弱(ぜいじゃく)なため、送金が途絶えれば経済的な打撃は甚大だ」と話す。

 だが送金以上に地方政府を悩ます問題がある。アガルワル氏は「消費が落ち込む中で労働者がさらに地方に押し寄せれば賃金は下落し、地方経済にとって二次的な打撃となる」と指摘する。こうした中、中央政府は5月に2770億ドル(約29兆7110億円)規模の経済対策パッケージを発表したのに続き、116のディストリクト(県)に滞在する移住者のために125日間の仕事を創出する70億ドルのプログラムを始動した。

 一方で、地方政府も対策を模索している。東部ビハール州のスシール・モディ副首相は、同州が投資用に2500エーカー(約10平方キロメートル)の土地を提供する用意があることを明かし、「移住者が押し寄せる危機的事態を当州の改革加速のチャンスとして利用する」と語った。

 同州の災害対策課長のプラティアイ・アムリット氏によると、このほか州が運営するインフラプロジェクトや州立学校の制服の縫製や家具作り、検疫センターの仕事に帰省者らを送り込んでいる。

 また、出稼ぎ労働者320万人を受け入れた北部ウッタル・プラデーシュ州では技術を持つ求職者のリストを作り、現地の製造業や不動産業の業界団体の協力により、これまでに30万人を建設会社や不動産会社に送り込んだという。

 移住「触発」に非難

 だが、こうした地方政府の取り組みについて、シンクタンクの開発途上国研究情報システムセンター(RIS)でフェローを務めるアミタブ・クンドゥ氏は「技術を持つ労働者の多くは政府のプログラムに参加したとしても、プログラムの肉体労働は身分不相応だとして嫌がるだろう。対立や不和など社会的緊張が高まりそうだ。カースト制度がまた影響力を増す可能性もある」と憂慮する。

 また、ニューデリーに拠点を置く非営利団体、インスティテュート・オブ・ヒューマン・デベロップメント(IHD)のラビ・スリバスタバ教授は「都市からの移住を触発するような開発計画で統治体制改善を狙うこと自体が失策だ」と非難する。

 ビハール州では11月までに選挙があり、移住者を大規模に受け入れてきた政府方針に対する州民の最初の審判となりそうだ。(ブルームバーグ Shruti Srivastava)

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