海外情勢

インド電子決済が“皮肉な浸透” コロナ非接触ニーズで政府目標実現

 新型コロナウイルスの感染拡大を機に、インドで電子決済の普及が急速に進んでいる。現金に手を触れ感染することを恐れる風潮が強いためで、今や食料品から電気代、タクシー利用料金まで幅広く利用されている。電子決済の普及は、政府が4年前に高額紙幣廃止とともに目標に掲げたものの、達成できなかった経緯があり、思わぬ形で実現することになった。

 3カ月で5年の変化

 オンラインの食糧雑貨店、ゲットシンプル・テクノロジーズのニティアナンド・シャルマ最高経営責任者(CEO)は「多くの人がオンラインでの食料品購入や決済を今回初めて経験している。5年かかるような変化がこの3カ月で起きた」と驚きを隠せない。

 モディ政権は2016年11月、脱税などの不正行為を減らすことを狙いに高額紙幣を突如廃止。電子商取引(EC)の普及も理由の一つだと説明していた。ただ、廃止直後は紙幣が入手困難となり、電子決済の件数が増加したものの、紙幣が市中に行き渡ると、現金主流の決済に逆戻りしていた。

 世界のスマートフォン市場の急拡大を追い風に、政府はEC普及の目標として1日当たり10億件を掲げた。インド準備銀行(中央銀行)も昨年、当時、国内総生産(GDP)の約10%だったECを21年まで約15%に増加させることを目標に掲げている。

 インドの電子決済市場は23年までに1兆ドル(約105兆800億円)規模と5倍の成長が予想され、IT大手の米アマゾン・コムやアルファベットなども熱い視線を送っている。中国のアリババグループが支援するインド最大の電子決済サービス、ペイティーエムや米フェイスブックのワッツアップペイなどとの間でシェア争いは既に始まっている。

 仏コンサルティング会社のキャップジェミニ・リサーチ・インスティテュートが行った最新の調査では、インドの消費者の4分の3が「感染拡大以来、電子決済の利用が増えた」と答えた。また、「今後6カ月間に利用をさらに増やす」と答えた人の割合は78%で、調査を行った11カ国で最高だった。

 同中銀の調べでは18年度(18年4月~19年3月)のインドの1人当たりの電子決済の利用は22.4件と14年度との比較で5倍以上の増加だった。ただ、中国は16年度に96.7件と、普及ペースでは中国に及ばない。

 英調査会社キャピタル・エコノミクスのエコノミスト、ダレン・オー氏は「キャッシュレス決済はウイルス感染がなかった場合に比べて急速に普及するかもしれないが、この先も現金が主な支払い方法という状況が長く続くだろう」と指摘する。

 潜在利用者なお多数

 同中銀によると、インドは現金自動預払機(ATM)から引き出される現金の額が中国に次いで世界第2位で、通貨流通量もGDPの11.2%と、多くの国よりも多い。主な要因は、インターネット接続が可能な国民は3分の1にすぎず、接続できても頻繁に問題が生じる状況であることや、電子決済に必要な銀行口座を持たない人が約20%もいることだ。バークレイズ銀行のエコノミスト、ラフール・バジョリア氏(ムンバイ在勤)は「電子決済は主として都市での現象だ。現在の水準は維持されるが、増加率は徐々に低下する」とみる。

 ただ、経済活動がほぼ全面的に停止したロックダウン(都市封鎖)開始直後の1週間も、食料品や薬品、携帯電話料金、公共料金などの必需品の電子決済は増加していた。日立ペイメントサービスのナブデジ・シンCEOは「高額紙幣廃止直後は法人組織の小売店での電子決済が大幅に増加したが、今回は地方の小型食料品店などでの利用が増えている」と指摘した。(ブルームバーグ Vrishti Beniwal、Suvashree Ghosh)

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