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インバウンド増加、格差の拡大…「歴代最長政権」の残した功罪にどう向き合うか

 辞任を表明した安倍晋三首相は、経済政策「アベノミクス」を掲げて景気回復に取り組んだほか、観光立国をアピールして訪日外国人を大幅に増加させた。一方で非正規労働者の待遇改善などは進まず、格差拡大を招いたとの指摘もある。8日に告示される自民党総裁選をへて、間もなく新政権が発足する。「歴代最長政権」の残した功罪に、どう向き合うべきなのか。

 「観光立国」を成長戦略の柱に位置付けた安倍政権は、ビザ発給要件の緩和や免税制度拡充などを推進。新型コロナウイルスの感染が拡大する前の昨年にはインバウンド(訪日外国人)は3188万人に達し、外国人らの消費額も4兆8千億円に膨らんでいた。

 各地の観光地はインバウンド需要にわいた。日本有数の観光地、神奈川県箱根町では、第2次安倍政権が発足した平成24年の外国人宿泊者は8万6275人だったが、30年には58万5169人と7倍近くに。町観光協会の佐藤守専務理事は「欧米や豪州を中心にインバウンドが増加した。今はコロナの影響は大きいが、アベノミクスの恩恵は大きかった」と話す。

 一方、「訪日客4千万人」を目指していた今年は、コロナ禍で外国人観光客は激減。1~7月の累計は395万人にとどまり、旅行業界は大打撃を受けている。コロナ収束後の観光浮揚策は喫緊の課題となる。

 雇用政策では、求人増や最低賃金の引き上げ、罰則付きの残業時間の上限規制を導入。24年12月に6240万人だった就業者数は、昨年10月には6787万人と500万人以上増えた。完全失業率も24年の4・3%から昨年は2・4%と、バブル期並みの水準になり、大卒求人倍率も25年3月卒から7年連続で上昇した(リクルート調べ)。

 しかし、29年に入社した広島市南区のメーカー勤務、森下明さん(28)は「内定が取れない人は減ったかもしれないが、大手には人が集まり、個人的には(就職が)有利になったという印象はない」と話す。

 リクルートキャリア就職みらい研究所の増本全(ぜん)所長は、「就職しやすくなったとひと口にはいえないが、求人の総数自体が膨らんだので、雇用環境は非常によくなってきた」と分析する。

 安倍政権下では、年収1千万円を超える「富裕層」が増加した一方、200万円以下の低所得者層も増加し、格差は拡大したとも言える。低賃金で立場の弱い非正規雇用は300万人以上増加。コロナ禍で不安定さはより顕著になった。

 貧困問題に取り組む認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」によると、同法人が東京都庁前などで週2回行っている食料配布や相談会の利用者はコロナ禍以降、増加しているという。

 コロナ禍で15年間働いた飲食店を4月に契約解除されたという都内の男性(65)は「景気がいいと感じたことはない。生活はどんどん苦しくなる」と明かす。病気などで働けず、現在はネットカフェで寝泊まりしているという都内の女性(40)も「このままだと路上生活しかない」と肩を落とした。

 もやいの事務局長、加藤歩さんは「路上生活者は減っているが、働いても収入が少なく困っている人が多くなっている」と指摘。「(次期政権には)社会保障の充実など、国がしないといけない部分に力を入れてほしい」と訴えた。

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