海外情勢

顔認証ニーズで危機脱したセンスタイム 中国に欠如している“歯止め”とは

 香港を拠点とする中国最大の人工知能(AI)企業、センスタイムが顔認証ソフトウエアや監視カメラの需要増で業績を急拡大させている。中国の地方政府が新型コロナウイルス対策で顔認証技術を大々的に採用していることが追い風となっている。同社は2019年に米トランプ政権が米国企業による半導体などの供給を禁じる禁輸対象企業となり、存続が危ぶまれていた。

 127市でカメラ分析

 共同創業者の徐立氏によると、同社の19年の売上高は前年比47%増の50億元(約776億5000万円)。また、顧客基盤も前年から約500社増加し約1200社となった。関係者の話では、20年の売上高は前年比80%増の約90億元、売上総利益も前年の2倍を見込む。

 こうした波に乗り、同社は香港と中国本土の両方の証券取引所で新規株式公開(IPO)を視野に入れている。これまでにソフトバンクグループやシンガポールの政府系投資会社、テマセク・ホールディングス、中国の電子商取引(EC)最大手アリババグループの支援を受け、直近の15億ドル(約1590億円)の資金調達ラウンドでは、調達前の時価総額が約85億ドルと評価された。

 中国は顔認証などの技術により早々に新型コロナ危機から経済回復にこぎ着けた。こうした手段に抵抗を持つ西側諸国とは対照的だ。

 中国政府は、武漢市での感染発生に際し同市の地下鉄入り口にカメラを設置。センスタイム製のカメラがマスク着用の有無や体温だけでなく、マスクの上から乗客の身元を検知する。

 中国では顔認証でもプライバシーへの配慮はなおざりだ。中央政府のこうした強硬手段が影響し、地方政府や企業、集合住宅も顔認証の使用に抵抗はほとんどない。4月には感染対策技術の導入を進める中央政府に対し、130を超える人権団体が「政府は公共衛生の危機対策の名の下にプライバシーや表現の自由などの権利をないがしろにするな」と訴える抗議文を発表した。

 こうした中、センスタイム製カメラは、中国の127の市で交通機関から集合住宅の安全まであらゆる物の分析に使用が続く。地下鉄の一部路線では、アプリ利用で顔認証を使った支払いが可能だ。同社は「データは各市庁の管轄だ」としてアプリの利用者数を明かさなかった。

 党が一転 民間支援

 スタートアップ企業などに資金を供給する毛向輝氏は「米国には顔認証の導入に歯止めとなる市民社会やプライバシーに関する規則、政府組織の構造などがあり、これにより利益を上げる企業は批判を受けるが、中国はこうした歯止めが欠如している」と話す。

 センスタイムの他、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)やIT大手のテンセント、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を傘下に収めるバイトダンスなど、中国IT企業に対するトランプ政権による攻撃を受け、中国共産党はこれまでの姿勢を一転して民間企業を支援。米国の重要産業であるIT産業で優位に立つため、独自開発に1兆4000億ドルを投じるとしている。(ブルームバーグ Lulu Yilun Chen)

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