海外情勢

インド政府・中銀、経済刺激策に苦慮 物価高で利下げ困難

 インドの4~6月期の国内総生産(GDP)が前年同期比で23.9%減と大幅に落ち込み、政府とインド準備銀行(中央銀行)にこの先どのような刺激策がとれるかが注視される。

 インドは過去には8%を超える成長率を誇ったが、近年ではシャドーバンク(影の金融)と呼ばれるノンバンク業界の危機を機に減速していた。新型コロナウイルスによる経済への打撃は、感染拡大の収束後にも長期間続くと予想される。金融機関が貸し倒れを恐れて融資に慎重になり、企業も借り入れや投資を縮小しており、全般的な消費の低迷につながっている。

 潜在成長率下げ観測

 英金融大手HSBCホールディングスのインド担当チーフエコノミストのプランジュル・バンダリ氏は「経済の実力を示す潜在成長率が感染拡大前の6%から5%に低下し、新型コロナの経済への影響は長引く」とみる。

 また、ドイツ銀行のインド担当チーフエコノミスト、カウシク・ダス氏(ムンバイ在勤)は「潜在成長率はコロナ以前の約6.5~7%から5.5~6%に低下する可能性もある。だが、名目GDP成長率が2桁に回復し、海外からの投資は継続する可能性もある」と予想する。

 市中銀行最大手のインドステイト銀行(SBI)のチーフエコノミスト、ソウミヤ・カンティ・ゴーシュ氏は「過去に経験した不況から推計し、実際の経済活動が以前のピーク時と同じ水準に戻るまで、通常は約5~10年かかる」と指摘する。

 だが、インド経済においては、5%の成長率でも毎年新たに労働力市場に加わる1000万人以上を吸収する十分な雇用創出効果はない。しかも感染拡大によりこれまでに職を失い、貧困に追いやられた人は数百万人に上る。

 民間のシンクタンク、インド経済モニタリングセンターの推計によると、4~7月の失業者は全労働力人口の21%に当たる給与所得者1890万人と、通りや屋台で物を売る人などを含む日雇い労働者約700万人。世界銀行は、インドでは1日の収入が2ドルに満たない人が人口の5分の1を超えているが、この先1200万人近くがさらに厳しい貧困状態にさらされると予測している。

 物価高で利下げ困難

 こうした中、中央銀行はこれまで多くの刺激策を講じてきた。政策金利を1.15%引き下げたのに加え、債券の買い入れといった流動性供給策や長期国債を買って同額の短期国債を売る「ツイスト・オペ」を打ち出した。また、納付金として国庫に数十億ドルを注ぎ込んでいる。

 さらに8月31日に中銀は債券市場を支援する追加措置を講じた。市中銀行が保有国債を現在の低い時価に評価替えすることなく、国債を保有する余地を広げる。また、数十億ドル規模の流動性の追加供給を行う。

 ただ、市中銀行が不良債権を多く抱え、政策金利の引き下げが貸出金利に反映されるまで時間がかかり、信用創造の回復は依然鈍い。インフレ率が上限目標の6%を超える中、金利引き下げには慎重にならざるを得ず、従来の金融政策には限界がある。

 インド政府も21兆ルピー(約30兆円)規模の経済支援策の概要を示したものの、中小企業への信用支援に偏り、減税など消費者への直接の支援で短期の需要を刺激する施策ではなかった。エコノミストの間では、政府は最低所得保障制度を導入すべきだとの主張や、今年は当初目標のGDP比3.5%の2倍を超えると予測される財政赤字を中銀が補填(ほてん)すべきだとの声も上がっている。(ブルームバーグ Anirban Nag)

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