世界銀行は9月28日、「東アジア・大洋州地域半期経済報告書」の2020年10月版「封じ込めから復興へ」を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大が地域経済に与える影響を分析し、カンボジアの20年の経済成長率はマイナス2.0%に落ち込むと予測した。
内戦終結後で初
報告書によると、カンボジアを含む東アジア・大洋州地域の20年の経済成長率は、基本シナリオで0.9%となり、1967年以来で最低を記録すると予測された。
カンボジアは2019年は7.1%、18年は7.5%、17年は7.0%と高い経済成長率を保っていたが、20年は基本シナリオでマイナス2.0%、低成長シナリオでは同2.9%になると予測された。カンボジアにとっては、1991年の内戦終結後、初めてのマイナス成長だ。ただ、2021年には回復傾向となり、基本シナリオで4.3%、低成長シナリオで3.0%と予測されている。
報告書では、東アジア・大洋州地域の各国のうち、カンボジア、ラオス、モンゴルについて「新型コロナそのものの影響は小さく、都市封鎖などの行動制限も比較的緩やかだった。しかし、世界経済の落ち込みに影響を受ける」としている。また、「いずれの国も若い世代の国民が多いが、衛生面で懸念があるほか密集した住環境のため、感染のリスクは存在する。また、脆弱(ぜいじゃく)な医療システムも問題」と指摘。その上で、これらの国々の経済が、観光、貿易、外部からの投資など国際経済に深く依存していることを挙げ、「国内の経済活動は回復してきているが、国際経済の回復がなければ、本当の意味で持続可能で強い経済を取り戻したとはいえない」としている。
東アジア・大洋州地域の他の国の成長率(基本シナリオ)をみると、調査対象となった新興国14カ国のうち、プラスの成長率を維持するのは中国(2.0%)、ベトナム(2.8%)、ミャンマー(0.5%)のみ。東南アジアで最も落ち込むのはタイでマイナス8.3%、次いでフィリピンが同6.9%、マレーシアが同4.9%などと予測されている。また、ミャンマーについては9月に入ってから感染者が急増していることもあり、「迅速な回復については不透明」としている。
地域経済に大きな影響を与える中国は、国内消費は低迷しているものの歳出が拡大し、輸出が好調であること、さらに新規感染率の低下などから、プラスの成長が見込まれるとしている。ワクチンが普及し、多くの国で経済活動が正常化に向かうことを前提とするが、21年にはさらに7.9%にまで回復すると予測している。
報告書は、新型コロナの感染拡大が、特に個人消費と投資の落ち込みを招き、経済に深刻な打撃を与えたと指摘する。個人消費の落ち込みは、世帯収入の減少、移動や活動の制限、将来への不安を緩和するための貯金などにより引き起こされた。これに伴い、産業セクターの中で最も打撃を受けているのは、飲食業や観光、交通などのサービス業だという。一方で、比較的打撃が小さかったのは農業セクター。報告書は、「例えばカンボジアでは、農業セクターが失業した人たちの受け皿となっている」としている。
中小零細の経営悪化
また、カンボジアを含む地域全体で、中小零細企業の経営状態に影響が出ていることも分析された。東アジア・大洋州地域各国の企業の売り上げは、前年同期と比べて最大で60%減少している。カンボジアでは、6月の売り上げは大企業で前年同月比37%減、中小企業で同51%減、零細企業で同52%減と落ち込んだ。また、5月の調査で「世帯収入が減った」とする家庭は79%に及んだ。
カンボジア国内では9月末までに277人の新型コロナ感染者が確認されている。死者はいない。277人の感染者の多くは外国で感染した人たちか、その濃厚接触者だ。カンボジア政府は、入国を希望する外国人に対し、出発国でのPCR検査を義務付けており、入国時にはカンボジア人を含む全ての人にPCR検査と自己隔離を義務付けている。
しかし、インドネシアとマレーシア以外には入国禁止措置は取っておらず、ビジネスビザ所有者であれば条件付きで入国が可能。国際便も運航しているが、観光ビザや到着ビザの発給は一時停止しているため、観光業セクターへの深刻な打撃は回復していない。(カンボジア日本語情報誌「プノン」編集長 木村文)