高論卓説

順風満帆に見えるデジタル庁だが… “ITゼネコン”と戦うことができるか

 菅義偉政権の目玉政策の一つが、電子政府政策を束ねるデジタル庁の設置である。2000年代初頭からIT政策の旗振り役で、この問題のエキスパートである平井卓也氏がデジタル改革担当相に就任したことから、民間の期待は大きい。今度こそは大きく前進しそうな雰囲気にあふれている。

 平井氏は、政界きってのIT通として知られる。2000年代から政府や自民党でIT戦略の旗振り役を務め、IT企業にも幅広い人脈を持っている。

 「平井さんは何をすべきか、分かっている。菅さんの後ろ盾も強そうなので、政府の電子化はようやく加速する」(大手コンサル会社幹部)、「省庁ごとのローカルルールが粉砕されるはず。デジタル活用をめぐる経済産業省と総務省の縄張り争いのようなことがなくなれば、無駄が一気に減る」(通信会社幹部)と、期待の声が聞かれる。

 平井氏を取材したところ、「光ファイバーや高速無線ネットワークなど、日本のインフラのレベルは高い。それはこれまでに達成できたことだし、世界に誇るべきことだ。ただ残念ながらそれを使いこなせていなかった」と率直な反省の声が聞かれた。

 普及率20%止まりのマイナンバーカードに対しては「これまでは国民からの期待がそれほど大きくなかったということ。しかし、コロナ危機で状況は変わった」(平井氏)。マイナンバーカードが全国民に普及し、そこに銀行口座がひも付けられていれば、コロナショック時の経済対策として行われた特別定額給付金の事務手続きは、まったく違うものになったはずだと悔しがる。「本来は最大の出番だった。事前に口座情報が分かっていれば、あっという間に振り込むことができた」

 実際、諸外国との比較で、日本のコロナ経済対策は迅速さの面で劣後していたことは否めない。マイナンバーカード普及加速についても、国民の理解を得やすい環境だ。

 その上、菅政権には、「デジタル化加速」に対する理解者が集まっている。情報システム開発業者であるフューチャーの創業者である金丸恭文氏もその一人。安倍晋三政権において農業の規制改革で存在感を示した金丸氏は、菅首相がもっとも信頼するアドバイザーだ。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性を指摘するサントリーホールディングスの新浪剛史氏、企業合併推進によって中小企業の生産性を飛躍的に引き上げることを提言するデービッド・アトキンソン氏も、IT通の菅ブレーンだ。13日に内閣官房参与に任命された村井純・慶応大教授や、高橋洋一・嘉悦大教授もデジタルのエキスパートである。

 多くの理解者を得ながら、デジタル庁準備室は勢いづくことになるだろう。来秋設置のデジタル庁は省庁のシステム投資全体を統括する大きな権限を与えられ、政府のデジタル化は飛躍的に進展しそうだ。

 しかし、超えるべきハードルも高い。難関は「ベンダーロックイン」だ。これは特定事業者の独自技術に依存し、そこから抜け出すことが容易ではない、という問題だ。

 中央省庁の複雑なシステムに精通しているのは、ITゼネコンとも揶揄(やゆ)されるNTTデータ、日立製作所などの事業者である。軋轢(あつれき)を避けて、こうした事業者とともに歩んでいくのか。それとも関係を断つ覚悟をもって臨むのか。ここがデジタル政府を飛躍的に発展させるための要諦である。

【プロフィル】山田俊浩

 やまだ・としひろ 早大政経卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。週刊東洋経済の編集者、IT・ネット関連の記者を経てニュース編集長、東洋経済オンライン編集長、週刊東洋経済編集長を歴任。10月から編集局会社四季報センター長。著書に『孫正義の将来』(東洋経済新報社)。

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