タイ政府は15日、反政府デモが続いている首都バンコクで非常事態宣言を発令し、警察が首相府の周囲を占拠していたデモ隊を排除した。デモ隊は抗議活動を続ける構えを見せており、対立が激化する可能性がある。事態が深刻化すれば、新型コロナウイルス禍からの再建を目指している観光産業への一段の打撃が避けられなくなるほか、同国金融市場からの資金逃避を通し、経済に大きな影響を与えかねない。
「デモ活動に油注ぐ」
バンコクでは前日、民主化やプラユット政権退陣を求めデモを行っている多数の市民らが首相府周辺に集結し、緊張が高まっていた。
プラユット首相は15日、「首都での抗議活動は国の治安や経済に深刻な影響を与える」として、5人以上の集会は禁止する非常事態宣言を発令し、違反者の逮捕を許可した。国家安全保障に悪影響を与えたり、不安をあおったりする恐れがある報道も禁じた。これに先立ち、政府報道官は14日夜に王政を批判するデモ隊に法的措置を講じる方針を発表していた。
タイのデモ団体「人民党」は4人の指導者が逮捕されたことを受け、15日にも抗議デモを開くと表明した。
マヒドン大学の政治学の准教授であるプンチャダ・シリブナブッド氏は「非常事態宣言は既に勢いを増しているデモ活動に油を注ぐ。デモ隊は政府が要求に耳を傾けていないとして反発し、運動を続けるだろう」と指摘した
7月上旬からタイ全土に広がった反政府デモでは、2014年の軍事クーデターを起こしたプラユット首相の辞任や憲法改正に加え、これまでタブーとされていた王政改革にも踏み込んでいる。14日には数万人のデモ隊が首相府に向けて行進した。
デモは観光と貿易に依存する同国が最悪の経済危機に直面する中で勢いを増している。同国は新型コロナの影響緩和に向け600億ドル(約6兆3000億円)の経済対策を既に可決している。抗議活動の高まりは今月から外国人観光客の受け入れを再開する政府の計画にも影響する可能性がある。
株価は一時1.1%下げ
一方、市場関係者らは非常事態宣言を受け、タイの金融市場から資金が流出する事態に身構えている。
タイでは政府への抗議活動の高まりが金融市場への重圧となり、年明け以降、外国人投資家による通貨と株式の取引は106億ドルの売り越しとなっている。タイの株価指標、SETインデックスは15日の取引開始直後、前日比0.8%下落し、その後下げ幅は一時1.1%を記録。年初来の下落率は約21%に達した。バーツの対ドル相場は一時0.2%下げた。国債の価格は大きく崩れなかった。
ストーンX・グループの通貨トレーダー、ミンゼ・ウー氏(シンガポール在勤)は「特に、抗議活動がエスカレートした場合の状況は投資家にとって理想的といえないのは明らかだ。タイから周辺地域の似たような国への資金流出が起きることになるだろう。バーツは明らかに弱含んでいる」と指摘。
ktb証券の会長、ウィン・ウドムラシュタバニチ氏は「今回の動きは短期的に株価にはマイナスだ。抗議活動が激化し、深刻な衝突に至らないか推移を見守る必要がある」と話した。(ブルームバーグ Randy Thanthong-Knight、Chester Yung)