日本の未来を考える

学習院大教授・伊藤元重 「後発国」卒業しない中国 (1/2ページ)

 米国通商代表部(USTR)の元高官が次のような発言をしていた。2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟したとき、中国が経済発展に伴って西側諸国のやり方に近づいてくるものと期待していた。しかし途中から中国はUターンして、西側諸国のやり方とどんどん離れていってしまっている、と。この発言の中にはいろいろな意味が込められているだろうが、米中の貿易摩擦の構図の中にそれが凝縮されている。

 中国はWTOの中で後発国のステータスを享受してきた。中国企業は米国や日本などの先進国に非常に低い関税で輸出できるが、先進国の企業が中国に輸出しようとすると時に非常に厳しい貿易制限の壁に阻まれる。中国への直接投資では地元企業との合弁を迫られ、100%子会社を中国に設立できない業種が多くある。その上、中国は多くの先端分野において自国企業の競争優位を確保するため、巨額の政府支援を行っている。

 こうした後発国ステータスは中国だけが享受しているわけではないが、世界第2位の経済規模になった現在、中国にこれ以上後発国ステータスは認められないというのが、米国の政策当局者の考えだろう。

 先端分野での競争の特異性が、米中貿易摩擦をさらに複雑にしている。ハイテク分野では「動学的な規模の経済性」が働く。競争相手に先駆けて生産規模を拡大した生産者が圧倒的に有利になるというものだ。半導体や自動車用のバッテリーがその典型である。開発や生産拡大のスピードがその企業の将来の競争力の鍵を握っている。こうした分野では、国家が支援するような産業政策が有効である。習近平政権が打ち出した中国製造2025とは、そうした産業政策を戦略的に実行していこうという内容である。

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