論風

学術会議のありようを論ずる 国にモノ言うなら民間機関で

 マサチューセッツ工科大学客員教授・庄子幹雄

 辟易(へきえき)するなんとも詰まらぬ国会テレビ中継である。日本学術会議から提出された推薦会員候補のうち6人が何故に任命を外されたのかをめぐる論戦である。コロナ禍をどのようにして切り抜け、あらたなる経済成長に向けて行政府としてどのように方向付けするかを論議すべきなのに、万年野党よろしく国民の生活とは全くかけ離れた、揚句の果ては、桜を見る会がどうのと、検察に移行している問題を謙譲語の使い方を知らない言葉で口角泡を飛ばしての時間稼ぎの質問である。

 こんな事態を5年前に逝去された学術会議会長を4期の長きにわたり務められた恩師、故近藤次郎東大名誉教授(以下先生)が目のあたりにしたら、どんな言葉を発するだろうか。

 先生には1962年から筆者が東大数物系大学院で学んだ2年余、高次の偏微積分の数値計算展開を指導された恩師、故森口繁一東大名誉教授とともに、建造物の物理現象解析、例えば地盤と建物との連成に始まり超高層ビルへの風圧、すなわち空気抵抗をどのように解析に盛り込むかにつき懇切にご指導いただいたのである。

 未来思考への変化模索

 学外でも「オペレーションズリサーチ(OR)」を建設業に導入しようとしていた筆者にOR学会会長就任前からORの発祥地、英国でのOR手法を伝授され、中央環境審議会会長を務められた期間中は委員(経団連所属)であった筆者に、会長としての立場は堅持されながらも企業サイドの意見を内々に求めてこられ、先生は常に中立公正なご判断を下されていたのである。

 それにしても儚(はかな)く思い出されるのは、確か3期目の学術会議会長任期を終えようとしていたときの先生との対話である。それは学術会議の宿命ともいえる左翼先鋭的な社会科学系学者の流れをどうすれば食い止められるか、そして本来の学問の未来思考を討議できる学術会議にできるかのやり取りである。

 先生はわが国の科学技術水準は十分に世界に伍していけるものであるが、偏狭な社会科学系学者の科学技術への理解(誤解というべき)のために全て軍事的転用に結び付けられてしまう、これでは科学技術の推進をうたうことはできないというお言葉であった。先生は元来が平和主義者である。そして常に日本には物理的資源は何もない。しかし、ただ一つ誇れるのは世界の最先端科学技術を追求できる人的資源、どの国にもヒケをとらない人材が豊富なことであると仰っておられた。

 残念なことに今の学術会議は日本を絶対に欧米、具体的には米国に対抗できない国にするという連合国軍総司令部(GHQ)の思想下で設立され、それがいまだに社会、経済、政治、憲法学者の流れとして引き継がれている。

 謙虚に学問を

 当時、先生は身近な例として優れた航空工学の科学技術者の名前を次々とあげられ、YS11の開発に携わったことから、今のスーパーコンピューターを駆使すれば複雑な流体理論を全て解明でき、エンジンの改良と相まって超高速の輸送機にすることは簡単であるが、これに対して構想段階からそれは軍事目的に利用されるからやめるべきとの反対意見に遭い、じだんだを踏む思いでやめざるを得なかったと口惜しそうに仰っていたことも思い出す。

 学術会議は国にモノを言うのであれば国の一機関ではなく経団連、経済同友会などと同じく民間で結成されるべきものである。学者の中には自分が学術会議会員であることを誇示する方がおられる。さらに先輩が会員である場合、後進の自分が会員になると広言する方も多々見られる。推薦候補の任命が見送られたことで国会へのデモを煽る者はいかなる分野の学者でもない。ただのポピュリズム扇動者である。

 ここに学問・研究を志す学術会議会員へ中国の諺を送らせていただく。

 「活到老、学到老」。ぜひとも会員は謙虚になっていただきたい。

【プロフィル】庄子幹雄

 しょうじ・みきお 1961年鹿島入社、副社長などを歴任し2005年退任。元日本計算工学会会長。NPO法人「環境立国」理事長。東大、名工大、慶応大、法政大で客員教授、講師を務める。1996年から米ユタ大学名誉教授。2006年から現職。オリックス顧問。京都大学工学博士。宮城県出身。

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