海外情勢

北極航路、海氷減でLNG輸送急増 汚染リスクは上昇

 温暖化の影響で北極海航路でアジアなどに運ばれる液化天然ガス(LNG)が急増している。北極海の海氷が減少し、タンカーの行き来が容易になったためだ。環境団体から懸念の声が上がる一方、関連業界には、通年輸送実現への期待が膨らんでいる。

 アジア向け過去最多

 2020年の北極海航路の開通期間は過去最長を記録した。化石燃料ビジネスで最も急拡大している年1000億ドル(約10兆4000億円)規模のLNG業界にとって異常気象は好機となり、同航路を活用したロシア北極圏からアジア市場へのLNGタンカー輸送数は既に過去最多に上る。

 ロシア西部のバレンツ海と東部のベーリング海峡まで3000カイリ以上広がる北極海航路の開通期間は例年、6月から10月の気温が上昇して氷が割れる時期だが、昨年は1カ月早く開通した。

 欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス(C3S)」のデピュティディレクター、サマンサ・バージェス氏は「20年は北極域の転機になり、平均より暖かい状況が1年を通して信じられないほど続いた、かなり特別な年だった」と話す。

 C3Sによると、北極海西部のバレンツ海とカラ海は昨年11月下旬時点でほぼ氷がなかった。アラスカ気候評価政策センターの気候専門家、リック・トマーン氏によると、露シベリア北東部チュクチ自治管区と米アラスカ州北西部間のチュクチ海では、1970年代終盤以降、氷冠が45%以上減っている。

 北極海航路の開通期間の長さは、北極域の温暖化が世界の他の国や地域の倍以上のスピードで進んでいることを端的に示す最たる証拠の一つだ。20年は観測史上最も暑かった年の上位3に入ったとみられ、同地域では気候変動に関連した大型災害の増加ペースは最も顕著だった。

 だが地球への悪影響はLNG産業の好機となった。スエズ運河やアフリカ南端を経由する場合に比べ、北極海航路の利用で輸送コストが低下。航路開通期間が長引くほど、中国や日本、韓国などLNG消費国のあるアジア市場に直行するLNG船は増える。

 異常気象で昨年の北極海航路経由のアジア向け輸送数は過去最多を記録した。露LNG生産最大手ノバテクのギエットバイ最高財務責任者(CFO)は昨年11月時点で、今シーズンの輸送数について当初予想より5回多い約30回になるとの見通しを示した。18年は4回、19年は17回だった。

 ロシアとLNG業界は出荷期間の延長に取り組んでいる。昨年10月にはタンカーが運航可能な月数を増やせるよう世界最大級の砕氷船を配備した。北極海航路運営を担う露国営原子力企業ロスアトムは「当社の北極海航路の開発戦略における主要目的の一つである通年開通に近づいている」との認識を示した。

 ロシアの「アルクティカ」級原子力砕氷船は現世代船舶をおよそ3割余り上回る厚さ2.9メートルまでの氷を突破でき、ノバテクがシベリア北西部ヤマル半島で手掛ける大規模ガス田から市場へのLNG輸送を支援することになる。

 英コンサルティング会社エナジー・アスペクツは昨年11月のリポートで、アルクティカ級砕氷船が砕氷LNG船に同行して北極海航路の運航を支援し、12月から4月の時期にアジア北東部へ数回輸送できるようになるかもしれないとの見解を示した。

 悪循環が急速に進展

 ただ、科学者や環境保護団体は北極域でのLNG業界の成功を懸念している。船舶増加が温暖化ペースを加速させる悪循環が連鎖反応で急速に進む「フィードバックループ」を目の当たりにしているためだ。氷の白い表層面が溶けると太陽光が熱に変わりやすくなり、一段と氷が溶けるという現象だ。

 バージェス氏によると、北極圏の海運交通量の増加に伴い環境を汚染するガス排出量も増え、気温が上昇してその海域に浮かぶ氷の塊が柔らかくなる可能性がある。タンカーの存在は、生物多様性が脆弱(ぜいじゃく)な地域で事故や積み荷が流出するリスクを高めていると警告する。

 同氏は「効率性の高い輸送ルートを活用する利点への強い関心がある。同様に、脆弱な生態系を保護するために適切な措置を講じて、その合法的かつ安全な履行を担保する政策導入が重要だ」と強調している。(ブルームバーグ Anna Shiryaevskaya、Laura Millan Lombrana)

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