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「どんな不況でも黒字にできる」トヨタ社員がどんな経済危機にも焦らないワケ (1/3ページ)

 新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第16回は「変化に対応できる人材育成」――。

 ※本稿は、野地秩嘉『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

 危機に対応できるかは、危機がやってきてわかる

 「トヨタがどれほど危機に対応できるのか。それは平時にはわからない。リーマンショックのような危機がもう一度、来た時に、初めて力がついたかどうかわかる」

 これは豊田章男の言葉だ。2009年に社長に就任して、会社をリーマンショックから回復させ、同時に品質問題への対応を行った。アメリカの上院公聴会に呼ばれて品質問題への証言を行ったのである。

 その後、一息ついたと思ったら今度は東日本大震災が起こる。続いて、洪水、台風、地震……。彼が社長になってから休まる時期はなかったのだが、その間、トヨタの危機管理能力は上がっていた。

 リーンな体制が継続しているため、危機管理が現場の通常業務のなかに組み込まれたともいえる。企業体力がついたとは、社員の大多数が日々、危機管理に近い業務をやっているからだ。部品在庫、完成車在庫が少ない体制で仕事をしていれば協力会社、販売会社の動静に関心を持たざるを得ない。また、危機になれば支援に行くと決まっているから、災害が起こるたびに情報を集める。

 災害を他人事として受け止めるのと、「自分が支援チームに入って現場へ行くかもしれない」と考えるのとでは、おのずから危機への対処が変わってくる。

 危機に対処するには、心はのんびりとさせて、脳と身体は活発に動かすことだ。

 教育方針がすなわち危機管理だった

 事実、同社の危機管理にあたる人材を見ていると、平時と同じように仕事をする。鉢巻きを締めて腹に力を込めて、真っ赤な顔をして被災地へ支援に入るのではない。ビジネスバッグに水筒と着替えを入れ、安全靴を履いた姿で飄々と出かけていく。

 トヨタでは「危機は大きな変化」と考えているから、最前線の社員も血相を変えることはない。

 豊田章男は「自動車会社は100年に一度の大変革期」と言って、社員に変化への対応を促してきた。日頃から「変わらなきゃいけない」と言ってきた同社の教育方針がすなわち危機管理だったのである。

 エグゼクティブ・フェローで、"おやじ"の河合満も「そうだ。その通りだ」とうなずく。

 「危機が来たらではなく、常にそういう人を育てていれば、危機が来ても対応できる。現場はずいぶん前から変化への対応を始めているよ。EV化でいずれエンジンはなくなる。これは大きな変化だ。

 だが、いきなりなくなるわけじゃない。少しずつ変わっていくわけだから、毎日が変化になる。うちの現場ではどこでも変化に耐えられる人を作っているところだ。変化に耐える人を育てていけば、何が起こっても順応してやっていく」

 「現場は目の前のものをいいものにしてたくさん作る、生産性を上げる。1円でも安く作る方法を考える。変化に耐えるとはそういうことだ。僕はこの競争力の意識がなくなったら、トヨタはただの会社になると思っとる」

 自動化してからが本領発揮

 確かにトヨタの生産現場は他社とは違う。トヨタの自動化ラインは、一度自動化したら終わりではない。例えば、3台のロボットを入れ、自動化しても徹底的にムダをなくす。改善して、3台のロボットが2台にならないかを考える。2台になったら次は1台にならないかとまた改善する。そして生産増になったら3台のロボットで生産性を倍に上げる工夫をしようと考える。

 つねに進化させ続けるのがトヨタだ。組み立てラインも月の生産量に合わせ、タクトを変更するし、ラインそのものを伸び縮みできるようにしている。そして、自動化ラインをシンプル・スリム・フレキシブルにするための生産技術革新を続けるのが日々の日課になっている。

 組み立てラインでは作業者がアンドンのひもを引き、ラインを停止させたら管理職は直ちに確認して、同時に保全マンがかけつけて、再起動させる。再発防止はその後の段階だ。そして、バックアップ工程(手作業)に切り替え、ラインを起動させる。

 トヨタの現場には河合の目が光っている。平時から変化に柔軟に対応することで危機管理能力が養っている。

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