主張

温対法改正案 追随型の脱炭素は危うい

 日本の社会全体に不可逆的かつ深刻な負の影響をもたらしかねない法改正案である。

 政府は現行の地球温暖化対策推進法に手を加え「2050年までの脱炭素社会の実現」という新規目標などを盛り込んだ改正案の今国会提出を目指している。

 米国の「パリ協定」復帰もあって欧州諸国を中心に、二酸化炭素(CO2)の排出実質ゼロを目指す動きが一段と活発化している。温対法の改正は、そうした中での菅義偉政権による国際潮流への追随である。日本の環境先進国ぶりを世界に示したいのだろうが、目標達成への確たる裏打ちを欠いた法改正だ。

 「脱炭素社会の実現」はCO2をはじめとする「温室効果ガス排出の実質ゼロ化」と同義である。産業など人間の活動によって大気中に排出されるCO2の量を森林などの植物が吸収する量にまで減らすことを意味している。

 バイデン米大統領の呼びかけで4月に予定されている首脳会議(サミット)や11月に英国で開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では「意欲的な目標」として欧米諸国から一応の称賛は得るだろう。

 だが、CO2の排出削減で最も実用的な原子力発電は、相次ぐ廃炉で基数が10年前の半分近くにまで減っている。再稼働も9基止まりで足踏み状態だ。主役を欠くエネルギー構成で、いかにして脱炭素社会を実現させるのか。

 再エネ拡充に傾斜すれば、電力の安定供給が綱渡りとなる。今冬の寒波による全国的な電力逼迫(ひっぱく)を見れば明らかだ。

 そもそも排出量が世界の3%に満たない日本の場合、国内のカーボンニュートラルによる地球大気の改善効果は僅かなものだ。

 日本の高度な環境技術を多くの途上国に普及させれば減炭素への大幅改善が期待できよう。イノベーションの好機でもあるのだが、高コストの再エネ電力の拡大や過大な脱炭素化要求によって産業界の負担が増せば、肝心の研究開発力の芽がしぼむ。

 脱炭素社会への移行は産業革命にほかならず、各国の経済とエネルギー安全保障が戦略的に関わる重大事だ。日本にとっては安全性を確保した原発の活用が生命線である。法改正では、その認識を菅首相と小泉進次郎環境相、梶山弘志経済産業相に強く求めたい。

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