海外情勢

アラブ、親イスラエルの芽 「政治抜き」若者中心に交流活発化

 アラブ諸国とイスラエルの歴史的な国交正常化がトランプ前米政権の主導で進み、イスラエルの占領下にあるパレスチナの孤立が深まった。だが苦境の同胞を見捨てた立場のアラブ市民に、罪悪感は薄い。特に若い世代に変化が際立ち「イスラエルは敵」との意識も弱まった。昨年8月に関係改善に踏み切ったアラブ首長国連邦(UAE)には、既に6万人超のイスラエル人が訪れ、交流が活発化している。

 UAEの主要都市ドバイのスーパーマーケットには、イスラエル産のザクロやナツメヤシの実が並ぶ。1970年代から禁止されてきた貿易が始まり、輸入された商品だ。ユダヤ教徒の食物戒律「コーシャ」に対応するレストランも増えた。

 「変化が楽しい」。黒い伝統衣装アバヤで全身を覆うエンジニアの女性、ソマイヤ・ムヘリさんはヘブライ語を学び、ドバイを訪れるイスラエル人と交流を重ねる。自身も昨年12月にエルサレムを訪問した。「政治や宗教の話は抜き」。イスラエル人との対話に抵抗感はない。

 48年のイスラエル建国で住居を追われたパレスチナ難民は、子孫を含め500万人を超える。アラブ諸国は領土を取り戻そうと73年まで4度の中東戦争を戦ったが、状況は変えられなかった。難民の帰還とパレスチナ国家樹立という「アラブの大義」は失われたのか。

 豊かなUAEで育ったソマイヤさんの半生は、中東和平交渉が停滞した期間と、ほぼ重なる。家族や友人とイスラエルの話題を避けてきた。「パレスチナについて積極的に考えることもなかった」と打ち明ける。

 「イスラエルを無視し批判するだけでは何も前進しなかった」。ソマイヤさんには、イスラエルとの関係改善を「裏切り」と非難するパレスチナ人の叫びが響かない。罪悪感はないと言い切る。UAEとともにイスラエルと国交正常化したバーレーンの会計士の男性も「イスラエルと交流し、観光や技術分野で得られるメリットの方が大きい」と語った。

 イスラエル政府によると、昨年12月だけで約6万7000人がUAEを訪れ、その数は主な渡航先の米国やトルコを上回る。イベント会社勤務のイスラエル人、イツィック・カッツさんは、昨年12月からドバイで暮らす。敬虔(けいけん)なユダヤ教徒の丸帽子キッパを頭に載せて街を歩き、カフェ「スターバックス」で取引先のUAE人と打ち合わせをする。「最初は不安だったが、温かく迎えてもらった」と話す。

 ソマイヤさんもイスラエルを憎む人の考えは理解できる。親や祖父母の世代が自分と同じ意見だとは思わない。ただ「対話を拒否すれば紛争は永遠に終わらない」と感じている。(ドバイ 共同)

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