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震災10年、地方の疲弊が深刻化 日本経済・金融政策に行き詰まり

 2011年3月の東日本大震災の発生当時、日本経済は被災地復興にとどまらない多くの課題や矛盾に直面していた。この10年で克服できたのか。主な指標と識者の見方を基に検証した。

 生産人口減、壁に

 東北は「コメを江戸に送り、明治維新後は兵隊を送った。戦後は若い労働力を東京に送り、実は電気も送っていた」

 11年4月、政府の復興構想会議の初会合。宮城県出身で元ソニー社長の中鉢良治(73)は東京電力福島第1原発事故の苦難にも触れ、東北は「後背地」で「片務的な役割」を負わされてきたと表現。日本全体のモデルに変革し、東京一極集中を是正するよう訴えた。

 技術者の中鉢が唱えたのは「技術革新を伴う復興」。今、目に映るのは「復興なき復旧」だ。防潮堤などのインフラが整った半面、産業再興は道半ば。労働生産性向上や人材育成といった根本的な課題が「被災地、地方に表れている」と語る。

 元岩手県知事の増田寛也(69)も被災地を地方疲弊の“映し鏡”と捉え、事態は深刻化したとみる。日本創成会議座長として14年にまとめた報告書で、存続の厳しい「消滅可能性都市」は全国で896だった。だが15年の国勢調査に基づくと927に増えたと明かす。

 処方箋は中鉢と同じだ。人工知能(AI)などの技術やデジタル化で事業を芽生えさせる。ただし「若い人が地元にいないといけない」。人口減、とりわけ15~64歳の生産年齢人口の落ち込みが壁として立ちはだかる。

 超円高、高い税負担や電気料金、自由貿易協定の遅れ…。10年前、日本企業は「6重苦」を訴えていた。特に円相場は11年10月、1ドル=75円32銭の戦後最高値を付けた。

 流れを変えたのは、12年末に政権を奪還した安倍晋三(66)の「アベノミクス」だ。日銀総裁に選んだ黒田東彦(はるひこ)(76)が大量に国債を買う異次元の金融緩和を始めると、超円高は解消に向かう。法人税率を下げ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)など大型協定を実現させた。

 しかし、金融緩和を強化しても、物価変動を除く実質国内総生産(GDP)は伸び悩む。失業率は改善したが、非正規雇用が2000万人超に増え、賃金は上がらない。労働生産性は19年、経済協力開発機構(OECD)加盟国で26位に低下した。

 新型コロナウイルスによる景気後退下でも金融市場は沸き、日経平均株価は今年2月15日、30年半ぶりに3万円を超えた。世界的にだぶつく緩和マネーが起こした「バブル」の声がつきまとう。

 「円の価値が下がり、ドル換算の株価はそれほど上昇していない。しかも多くは海外からの投資だ」。冷ややかなのは生活用品大手アイリスオーヤマ(仙台市)会長の大山健太郎(75)。法律による最低賃金引き上げを消費、雇用拡大の打開策と考え「みんなが賃金を底上げすることで競争力は落ちない」と説く。

 欧米では低成長・低インフレ・低金利から抜け出せない経済状況を「日本化」と呼ぶ。長期停滞と金融政策の行き詰まり-。その評価は厳しい。

 供給網強化は困難

 半導体工場の被災などで自動車生産が軒並み止まり、弱さが露呈したサプライチェーン(部品や材料の調達・供給網)。幾つかの企業が得意分野を受け持って製品を仕上げる「水平分業」とグローバル化の結果、強化は容易でなくなっている。

 トランプ米政権が中国に仕掛けた貿易摩擦では、日本企業も関税アップに翻弄された。今年も台湾企業からの半導体調達が滞ったところに最大震度6強の地震が起き、車の減産に追い込まれた。

 財政では国の借金が10年で4割増え、21年3月末には1292兆円に膨らむ。コロナ対応に伴う空前の国債増発も金融緩和による超低金利が支えているが、政府が巨額資金を吸い上げて「民間の経済活動を抑制している」と、国際公共政策研究センター理事長の田中直毅(75)は分析する。

 現首相の菅義偉(72)は30年後の脱炭素社会実現を掲げたが、足元のエネルギー政策は火力発電依存が続き、具体策が定まらない。日本経済の難題は数多い。(敬称略)

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