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全日本柔道連盟 コンプライアンス委に限界

 全日本柔道連盟(全柔連)の執行部が、ガバナンス(組織統治)に関わる不祥事を内部で処理しようとしていた問題が再び明らかになった。愛知県連盟の執行部刷新などを求めるコンプライアンス委員会の勧告書案を、山下泰裕会長は約4カ月も手元に置き、対応を先送りしていた。前事務局長によるパワーハラスメント疑惑と同様、理事会には諮っていない。隠蔽(いんぺい)の意図はなかったのか。説明が求められる。(田中充、森田景史)

 愛知県連の問題をめぐる全柔連の対応は、ガバナンスの欠如と規範意識の低さを物語る。理事会にさえ諮らず、役員の一部だけで騒ぎを収めようとした構図は、パワハラ疑惑のときと同じだ。日本オリンピック委員会(JOC)会長を兼ねる山下泰裕会長が、その中心にいる事実は重い。

 全柔連の中里壮也専務理事は「愛知県連を正常化させるのに、勧告書の送付と直接伝えるのとどちらが効果的か。山下会長が判断した」と説明する。しかし別の全柔連関係者は「地方組織とはいえ、執行部刷新の勧告といえば重大事案だ。理事会に諮らず処理するのは考えられない」という。

 柔道界の信用にもかかわる問題が、これまで公にならなかったのはなぜか。浮かび上がるのは、調査を担ったコンプライアンス委員会の限界だ。

 8年前に発覚した助成金の不適切受給などの不祥事では、弁護士らによる第三者委員会が調査を実施。執行部の責任を追及する最終報告書を公表し、内閣府も事実上の執行部刷新を求める勧告を行った。全柔連の組織再建はオープンな形で進められた。

 パワハラ疑惑と愛知県連の問題を調査したコンプライアンス委も、元大阪高検検事長の寺脇一峰氏を委員長に、柔道界内外の有識者で構成されている。だが、内部組織であるため、事案を公にする権限は持たない。パワハラ疑惑では、聴取に応じた職員にさえ結果が知らされなかった。「会長一任」は、隠蔽の温床にもなり得る。

 全柔連が設ける内部通報制度でも、昨年末まではパワハラの指摘を受けた前事務局長が窓口を務める状態が長く続いていた。今でこそ外部の弁護士に窓口が移されたものの、危機意識の希薄さは拭えない。

 執行部の対応次第では、コンプライアンス委の調査も組織内の不満を感知するための「諜報」になりかねない。外部の目による監視は、有名無実化しているといっていい。

 愛知県連の河原月夫会長は、全柔連から昨年9月29日付で10カ月の会員登録停止処分を受けた後も、理事会に出席するなど活動を続けた。

 通報を受けた全柔連コンプライアンス委が関係者から聴取。河原氏の会長就任後に県連の会計で不明朗な支出が増えたなどとして、同11月26日の常務理事会で、執行部の刷新などを求める勧告書案を山下会長に提出した。

 同委員会は前事務局長によるパワハラ疑惑の調査報告書も同時に提出したが、2件は議題ではなく「報告事項」として扱われた。寺脇委員長からは、事案の概要や中身についての説明はなかったという。

 山下会長は今年1月になって、藤木崇博副会長、中里専務理事と名古屋市内で河原氏と面談。処分に従うよう伝えたが、執行部刷新などを求めた勧告書案については伝えなかった。

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