環境とファイナンス

(上)増加するグリーンボンド発行

 金融市場、課題解決を後押し

 世界の金融市場では近年、環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を考慮する投資概念の広がりや、パリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)といった国際的合意も背景に、環境課題の解決に取り組む機運が高まっている。例えば、パリ協定の目標達成に向けて世界全体で約58兆~71兆ドル(約6400兆~7800兆円)の投資が必要との国際エネルギー機関(IEA)の試算が示唆するように、環境課題の解決には多額の財源を必要とするため、金融市場を介した財源調達も増えているのである。環境課題解決に向けた金融商品としては、グリーンボンド(環境債)やトランジションボンド(移行債)などが挙げられる。

 日本は世界の2%

 環境債は、環境改善効果をもたらすことを目的としたプロジェクトに要する資金を調達するために発行される債券である。欧州投資銀行(EIB)が2007年6月に発行した「気候変動への認知度を高めるための債券」が世界初とされる。当初は、国際機関が発行体の中心であったが、12年頃から地方公共団体、事業会社、金融機関などによる発行も増えるようになった。

 さらに14年1月には、環境債発行に関する自主的ガイドラインである原則が策定されたことから、世界的に発行額が拡大するとともに、発行体セクターの多様化が進んだ。その結果、世界の発行残高は20年末現在、約9428億ドルに達している。国別では米国、フランス、中国、ドイツ、オランダが中心だ。

 日本の発行体による環境債は、14年10月の日本政策投資銀行による起債が初めてで、20年末の発行残高は約212億ドルと世界全体の2%程度。とはいえ、環境債の発行額は17年度頃から順調に増加している。これは、環境省による17年度からの環境債発行モデル創出事業、18年度からの環境債発行促進体制整備支援事業(補助事業)といった支援策が寄与している。

 環境債発行モデル創出事業は、環境省が策定したガイドラインに準拠し、モデル性を有する発行事例について情報発信するものである。一方、補助事業は、環境債発行に際して一定の要件を満たせば、外部評価の取得コストなどを補助するもので、18年度頃から事業会社を中心に多くの発行体が環境債の発行に取り組むようになった。

 移行債も起債検討

 移行債は、温室効果ガス排出量などの観点から環境債の発行基準を満たさないものの、低炭素・脱炭素経済社会などに移行(トランジション)するためのプロジェクトを資金使途とする債券。香港の電力会社キャッスル・ピーク・パワー・ファイナンスによる17年7月の起債を始めとして、海外ではいくつかの事例があるが、日本では21年3月末現在、発行されていない。

 ただし、国際債券市場にかかる自主規制団体である国際資本市場協会(ICMA)が20年12月に移行債にかかるハンドブックを公表したほか、日本でも20年に入って経済産業省などで移行債、移行ローンを含めたファイナンスのあり方について検討が進められており、21年春には移行ファイナンス基本指針が公表される予定になっている。

 菅義偉首相が20年10月に50年までに温室効果ガス実質ゼロ(ネットゼロ)を目指す旨を表明したことを受けて、多くの企業がネットゼロへの取り組みを加速している。企業が資金調達の一環で移行債の発行に取り組むケースが近い将来に増加すると想定される。

 ネットゼロの確実な達成や健全な金融市場の発展に向けて重要なのは、インパクトの創出、開示の拡充の2点といえる。インパクトは、端的には環境面へのポジティブな効果を意味し、金融市場で長らく根付いてきた投資判断の尺度であるリスク、リターンに次ぐ評価軸として注目が集まっている。開示については、企業などによる投資家向け広報(IR)で典型的に開示されてきた財務情報のみならず、環境面を含めた非財務情報も適切に投資家に提供することで、適切な投資判断につながるとともに、金融市場の健全な発展に資することが期待される。(野村資本市場研究所野村サステナビリティ研究センター長 江夏あかね)

 環境課題の解決に向けて、金融市場で資金調達する動きが活発になっている。野村資本市場研究所の協力で、環境とファイナンスの最新動向を解説する。

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