国内

原発処理水処分、ようやく動く…海洋放出、風評対策が急務に

 東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分方法をめぐり、政府は海洋放出の方針を固めた。課題だった処理水の処分がようやく動き出す。原発構内の貯蔵タンクは1000基以上に増え、廃炉に必要な作業スペースの確保に影響を与えかねない。海洋放出の決断は重要な一歩だが、海産物の風評被害に対する懸念は根強く、不安払拭のためにも作業の透明性確保が求められる。(福田涼太郎)

 早急な決断求めた規制委

 「時間を置かずして意思決定がなされないと廃炉に悪い影響が出る。速やかな決定を望んでいる」

 原子力規制委員会の更田豊志(ふけた・とよし)委員長は7日の定例会見で処理水の処分方法を早急に決めるよう求めていた。

 これまで海洋放出について「実行可能な意味において、ほとんど唯一と言っていい処分方法」などと繰り返し妥当性を訴えてきた更田氏。しかし、依然として不安の声も多いことを考慮し、「いずれにせよ、苦渋の決断になるので難しい問題」と述べるにとどめた。

 規制委は東電がまとめる海洋放出計画を審査するほか、処理水の放射性物質濃度の検査なども担う。更田氏は「どれだけ(社会の)理解を深められる情報発信をするかというのは大きな課題だ」と述べ、準備を進める考えを示した。(【エネルギー政策議論は】処理水問題最終調整 原発行政議論の前進に期待)

 国内外の原発で海に放出

 処理水とは事故炉にある溶融核燃料(デブリ)を冷やすための注水に加え、建屋に流入する雨水や地下水によって発生した汚染水を浄化処理したものだ。東電が準備したタンク137万トン分のうち3月18日現在で約125万トンが貯蔵済み。来年秋にも満杯になる。

 汚染水に含まれる放射性物質のうち、トリチウムだけは汚染水処理装置でも取り除けないことが一部で問題視されているが、トリチウムはエネルギーが弱く、人体に蓄積もしないとされる。その上、処理水は放出時、基準濃度より低濃度に希釈されることになっている。これまでもトリチウムを含む水は、国内外の原発で海に放出されている。(【海外の反応】中国、処理水海洋放出は「周辺国と協議し慎重に決定を」)

 「人体、生態系に影響ない」

 平成25年から処理方法を検討してきた経済産業省の小委員会では、大気への放出なども検討され、終盤には敷地内での長期保管も俎上に上がったが、最終的に唯一実績がある海洋放出を有力視する提言をまとめた。

 東京工業大の澤田哲生助教(原子核工学)は「小委では結論が出ていたのに時間をかけすぎた。人体や生態系に影響はないが、風評被害は起こるべくして起こり、乗り越えるしかない。政府が腹を決めて地元への補償など対策を立てるべきだ」と話している。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus