海外情勢

海洋放出提訴検討で自縄自縛の文在寅氏…対日外交は一層混迷へ

 【ソウル=桜井紀雄】日本政府が東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を決めたことをめぐり、韓国内で反発が収まらない。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、国際海洋法裁判所への提訴という「非現実的」とされた対抗措置の検討を指示。日韓関係の改善に意欲を見せながら、対日外交で身動きの幅を自ら狭める結果を招いており、対応の混迷ぶりが目立つ。

 海洋放出決定後、韓国で注目されたのが、韓国政府の作業部会が昨年10月にまとめた報告書だ。処理水が放出され、韓国の海域に達しても「海流に乗って拡散・希釈され、意味ある影響はない」と記されていた。

 処理水に含まれる放射性物質のトリチウムに関しても「水産物摂取による被曝(ひばく)の可能性は極めて低い」との分析も明記された。

 文氏は14日、放出を阻止するため、国際海洋裁に仮処分を求める検討まで指示しており、報告書の認識との乖離(かいり)は甚だしい。外交筋は、世論の非難を見越して現段階で明言し得る最も強い措置に言及したのではないかとの見方を示す。

 メディアは「国民の安全に関わる問題なのに、何をしてきたのか」と韓国政府を批判。2008年の米国産牛肉輸入解禁に反対した大規模デモや、14年の旅客船セウォル号事故など、食や国民の安全をめぐる問題での世論の反発は当時の政権を揺るがしてきた。今回は「反日」世論も絡むだけに、文氏は譲歩はあり得ないと判断したとみられる。

 文氏の指示に最も困惑したのは、韓国外交当局だろう。韓国紙によると、海洋放出による「被害」を韓国側が立証する必要があるが、実際の放出は2年後だ。韓国政府は現段階での提訴を「現実味に欠ける」と判断してきたという。外交当局者は、提訴は日本に「圧力をかける選択肢の一つだ」と説明している。

 外交当局にとって大統領の指示は無視できず、対日協議のたびに提訴カードをちらつかせ、放出見直しを要求せざるを得ない。いわゆる徴用工や慰安婦訴訟問題で難航した日韓外交に新たな難題が加わった形だ。

 文氏は14日、相星孝一駐韓大使に放出決定への憂慮を伝えつつ、日韓は「友人」だとして「協力する精神と意思があれば、どんな難問も解決できる」と強調。「東京五輪の成功を祈る」とも述べた。ただ、国内世論を意識した文氏の提訴検討指示からは、日本の事情に配慮した「協力の意思」は読み取れない。

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