海外情勢

インド、地元民の優先雇用で波紋 各州義務化で産業界が成長阻害を懸念

 インドの各州で民間企業に対して地元民の優先的な雇用を義務付ける政策の導入が加速している。新型コロナウイルス感染拡大に伴う国内の失業率の悪化が背景にある。ただ、産業界からは将来の企業活動や投資計画に悪影響を及ぼしかねないなどと懸念の声が上がっている。

 事業のしやすさ逆行

 インド北部ハリヤナ州は3月、月給が5万ルピー(約7万2500円)以下の仕事について、75%を州内の居住者で雇用することを民間企業に義務付ける新法を施行した。同州のドゥシャント・シャウタラ副首相は新法が「若者に雇用をもたらし、産業を強化する」と説明した。

 一方、ハリヤナ州の新法をめぐっては海外企業に懸念が広がっており、実際に州外への事業移転が発生している。多国籍企業を多数誘致する同州の都市グルグラムに拠点を移したばかりの韓国の物流企業は同社の熟練労働者が新法の定める要件を満たしていないため、代替策を検討している。

 在インド韓国商工会議所のヒー・チョル・ジョン事務局長は「現行の規制は事業のしやすさとは逆行するものだ。規制は事業運営上の柔軟性やダイナミックなビジネス環境を好む投資家を遠ざける可能性がある」と指摘する。

 インドでは昨年全土を対象に実施されたロックダウン(都市封鎖)により数百万人が失業したほか、1952年以来の経済縮小に見舞われ、十分な雇用を創出するとしたモディ首相の公約に暗雲がたれ込んでいる。現在、多くの州が企業に地元住民の雇用を義務付け、さらなる経済成長の妨げとなりかねない国内の貿易障壁を設けている。

 インド南部アンドラプラデシュ州は2019年に州内の工場に対し、雇用を地元住民とすることを義務付ける新州法を交付し、州民雇用法の先駆けとなった。これに続き、ジャールカンド州が3月に同様の政策を承認したほか、タミル・ナドゥ州の地域政党のトップも州議会議員選で雇用保護の公約を掲げている。

 地元人材を雇用した企業に助成金を与えるシンガポールの雇用促進政策とは異なり、ハリヤナ州などインド各州の雇用法は企業への強制力がある。インド工業連盟(CII)の医療技術部門のヒマンシュ・バイド会長は「政府は投資家を脅かすのではなく、すぐに採用できるような人材を育成すべきだ。産業界は地域を問わず国内の優秀な人材を必要としている」と話した。

 これらの雇用法は表向き若い労働者への支援をうたっているものの、労働者の権利擁護活動を行う弁護士は居住移転の自由や、生活の権利、出生地による差別の禁止などの憲法が保障する基本的人権に違反していると警告する。

 企業撤退促すリスク

 インド最高裁判所弁護士を務め、労働者の権利保護に取り組んできたタニマ・キショア氏は「ハリヤナ州雇用法は過剰かつ排他的な性質を持つように見受けられる。国内各地であらゆる職業に就いたり、商売を行ったりすることができるという憲法上に定められた権利を侵害しているとの理由で、異議を申し立てられる」と指摘する。

 考えられる法的不備のほかにも、同法はグルグラムなどの都市の魅力に貢献してきた企業の撤退を促すリスクもある。グルグラムは海外のバックオフィス業務の拠点となっており、希少価値の高い英語に堪能な人材を必要としている。

 インド東部にあるランチ大学の客員教授を務めるジャン・ドレーズ氏は「この先は滑り坂だ。多くの州がこうした政策を模倣すれば、不利な立場にある大勢の労働者の雇用機会に悪影響を及ぼすリスクがある」と指摘した。(ブルームバーグ Bibhudatta Pradhan)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus