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GAFAよりもトヨタのほうが優れた企業であると言える経済学的な理由 (2/2ページ)

 利益は生んでも雇用は生んでいないGAFA

 大企業はとにかく多くの社員を抱え、それによって大量生産で富を生み出し、社員を雇用する。安定した雇用は、豊かな中産階級を生み出し、それがアメリカ民主主義の繁栄の中核になる。自動車もコンピュータも製造業も、すべての中心がアメリカにありました。

 日本も同じで、かつてのグローバル大企業というのは、直接的であれ間接的であれ多くの雇用を生み出し、社員を養っていたんです。ですがGAFAをみてください。彼らはどんな人間を雇っていますか。

 【田原】GAFAが雇っているのは、高学歴のエリートたちだ。

 【冨山】そうです。だからGAFAはデジタル時代、知識集約産業時代の最も成功した企業群で、もっとも時価総額が高い企業群ではありますが、30年前に時価総額トップ10が生んでいた雇用の数、しかも良質な雇用の数を生み出していません。一部のトップエリートが富を分け合っていて、それはデジタル革命の必然なんです。

 【田原】そうか、そこが違う。30年前のトップ企業は、多くの雇用を生んでいた。

 【冨山】自社やグループ会社だけではなく、下請けの自動車工場などでも大量の人を雇っていました。アメリカではそうした人々が、いわば穏健な中産階級になっていき、時々共和党に入れて、問題があれば時々民主党に入れるような層となっていったんです。それが今は深刻な格差社会になっています。

 GAFAが日本で言う正社員的に雇っている人たちは、スタンフォード大学やMITを卒業し、しかも博士号は当たり前というような、超がつくもの凄いインテリが中心です。あれだけの時価総額なのに数万人しか雇用がない。世界で戦っている自動車産業のトヨタが生み出している雇用にはまったく及ばないでしょう。

 中産階級の雇用を生む産業を育てるべき

 そしてかつて米国の中産階級雇用を生み出した製造業系の現場はグローバル化で新興国に流出してしまった。何せ人件費が何10分の1ですからいかんともしようがない。対抗しようとしたら大幅に賃金を下げるか、猛烈な自動化しかないので、結局、良質な雇用は生まれません。

 今のトップにいるグローバルIT企業は製造業に比べて、まったく雇用を生み出しませんし、雇用を必要としないモデルなんです。このことこそ本当に考えるべきことで、日本は遅れている、日本からもGAFAのような企業を生み出さなくては経済の復活はないと主張する人が時々います。

 でも今からこの領域に追いつくのはものすごく大変というかほぼ無理で、しかも実現したところで日本社会に大きな雇用は生まれません。グローバルな競争をやりたいという人がいることはもちろん大切なんですが、それで潤うのはトップクラスの人材だけです。

 日本においてもマジョリティにとって大事な中産階級の雇用をどこで生むか、そうした産業をどう育てるかを考えないといけないんです。グローバル化とデジタル化が、先進国の中産階級雇用を猛烈な勢いで奪ってきたことはまぎれもない事実です。実際に、ソニーもパナソニックも失われた雇用がある。デジタル化の打撃が比較的少ない自動車産業は、今はまだ特別な領域なんです。

 ボトムアップの改善改良を全社レベルで行えるのがトヨタの強み

 自動車産業でもトヨタは本当に特別な存在です。トヨタの強みは特定の人に頼った発明や技術というものがほとんどないことにあります。もちろん有名な経営者やプロジェクトリーダーはいますが、トヨタの一番大切なものは現場から生まれています。現場の働き手たちが集団で努力をして、その結果としてカイゼン、ジャストインタイムという根幹部分が出てきた。

 営業セクションも同じで、現場ごとの集団改良というのを大切にしていて、足元からはじめていく。それはすごく日本的な集団主義にマッチしています。「冨山が批判してきた日本企業じゃないか」と思われるかもしれませんが、私は非効率な集団主義は悪いと言っているだけで、何が効率的で、何が非効率かは業種、会社により違っています。

 そして、何よりトヨタは海外展開もしている企業なので、取締役に女性もいれば、外国人もいます。同質性の高い経営陣ではありません。そこに日本的に集団で改善改良をやっていくということを徹底してきた現場が結びつく。

 いずれも私の高校大学の先輩である経営学者の藤本隆宏(ふじもとたかひろ)先生や新宅純二郎(しんたくじゅんじろう)先生の有名な研究がありますが、現場起点、ボトムアップの改善改良が本社レベル、全社レベルの変容まで引き起こす力を持っている、ここもトヨタの強みでしょう。

 

 冨山 和彦(とやま・かずひこ)

 日本共創プラットフォーム代表取締役社長

 1960年生まれ。東京大学法学部卒、在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。2003年から4年間、産業再生機構COOとして三井鉱山やカネボウなどの再生に取り組む。機構解散後、2007年に経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年12月より現職。パナソニック社外取締役。

 

 

 田原 総一朗(たはら・そういちろう)

 ジャーナリスト

 1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所へ入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

 

 (日本共創プラットフォーム代表取締役社長 冨山 和彦、ジャーナリスト 田原 総一朗)(PRESIDENT Online)

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