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中国の理美容業 日本との3つの違い 

 野村総合研究所・高藤直子

 中国の理美容市場は2019年に約1兆元(約17兆円)と推計され、日本の約7倍近い規模を有している。新型コロナウイルス感染症の影響を受けつつも、前年比2~3%で安定的に拡大していくものと予測される。

 この市場規模と成長性に加え、日本のヘアサロンサービスへの評価の高まりから、日本の大手チェーンが中国に進出する動きもみられる。「DADA Hair Salon」は09年に上海に1号店をオープンし、現在は上海と蘇州で3店舗を展開している。一方で、日本との商習慣や文化の違いで撤退を余儀なくされる企業も多い。

 単価・客層で区分

 事業環境にどのような違いがあるのか。第1の違いは、中国の理美容市場のセグメンテーションの区分である。日本ではヘアサロンのサービス品質はどの店舗でも高く、カット料金は主に立地やスタイリストのレベルに応じて3000~7000円ほどで設定されている。一方、中国の店舗は価格の幅が広く、単価とターゲット顧客に応じて3つのセグメントに分けられる(図)。

 第1階層は、最も店舗数が多く利用客も多い「大衆店」である。住宅エリアに立地し、平均単価は800~2000円ほどに設定されている。安価にヘアカットを受けたい消費者がターゲット層で、個人経営店からグループチェーンまで多数の事業者が存在している。

 第2階層は、繁華街での出店が多い「総合店」である。中間所得層をターゲットに、平均単価は2000~5000円ほど。チェーン展開されている店舗が多く、ヘアカットの他にスパやマッサージなどのリラクセーション関連サービスを提供している。

 第3階層は、ショッピングセンターなどに立地する「専門店」である。富裕層を主要顧客として、最新トレンドや技術を発信している高級店が多い。平均単価も5000~4万円ほどと、受けるサービスや担当する美容師のレベルにより価格の幅が広がっている。

 日本のヘアサロンが店舗展開を目指す場合は、「専門店」がマーケットセグメントとなり、現地では「東田造型」や「木北造型」などの高級ヘアサロンが競合となる。「東田造型」は東田時尚が主力とするヘアサロン事業で、中国国内に40店運営している。富裕層をターゲットとし、高級地の路面店やハイエンド商業施設のテナント店を展開している。

 第2の違いは、中国のヘアサロンでの支払いが日本の利用サービスごとの支払いとは異なり、プリペイ方式である点である。「東田造型」でも、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンドの4階層でプリペイ会員を構成。最上級のダイヤモンド会員には、25%割引とヘアケアやシャンプーなど4回分の無料チケット付きで約33万円で販売している。またプリペイ会員には割引キャンペーンや美容に関する情報を発信するなど、デジタルマーケティングにも注力している。こうした付帯サービスやキャンペーンによって、実際の支払価格は表示されている標準価格よりも値引きされていることが多い。

 店長に店舗運営権限

 第3は、店舗マネジメントの違いである。中国では店長に、店舗運営の権限を一定程度与えられる人材を現地採用することで、スタイリストとのコミュニケーションや中国の営業許可をはじめとする制度への対応などがスムーズになる。サービスレベルの維持や優秀な人材の確保のためにも、店舗単位でマネジメント力を高め、きめ細やかに人材を育成し評価することが安定的な店舗運営につながる。

 日本の理美容業が中国で事業拡大する際にはこのような相違点を踏まえ、(1)現地の高級有名店と比較されていることを想定した立地戦略や日本ならではのサービス価値の訴求(2)プリペイ会員の獲得に向け、新店オープンの大規模キャンペーンやプリペイ優待などの初期販促計画の策定(3)店舗マネジメント層、有力スタイリスト層の雇用定着のための研修や評価制度の設計-が必要である。

 インバウンドの“コト消費”では、日本滞在中に美容室でヘアカットをするというニーズも多く、国内でも中国語に対応するヘアサロンも増えていた。日本が得意とする丁寧で品質の高いサービスは、中国の消費者にも高く評価されている。本稿に挙げた日本との違いが日本企業の中国展開の参考となり、日本のヘアサロンのサービスが中国でも拡大していくことを期待する。

【プロフィル】高藤直子

 たかとう・なおこ 2006年野村総合研究所入社。ヘルスケア・サービスコンサルティング部上級コンサルタント。ヘルスケア&ビューティー領域を得意とし、海外展開や新規事業戦略などの実績多数。

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