海外情勢

巣ごもり視聴、吹き替え版が世界で需要 外国語番組ストリーミング拡大

 米ネットフリックスをはじめとする動画ストリーミングサービス各社の間に、海外での事業展開に向けて吹き替え・字幕付き番組のニーズが高まっている。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により多くの人々が自宅で過ごすようになり、外国制作の番組を視聴する機会が増えているからだ。

 ネットフリックスは過去数年間でストリーミングサービスを米国から190カ国以上に拡大しており、海外市場の顧客は全体の64%、2020年新規加入者のうち83%を占める。同社の創業者兼会長のヘイスティングス氏にとって、質の高いローカライズ版の制作が国際展開する上での優先事項となっている。このため、年間数百本のさまざまな番組のローカライズ版制作に向けて、同社は170余りの吹き替え・字幕制作スタジオと提携し、34カ国語以上で番組を制作している。

 米でも浸透の兆し

 大泥棒の人気シリーズを基にした犯罪サスペンスシリーズ『Lupin/ルパン』は吹き替えの台頭を示す顕著な例だ。全編フランス語で撮影されたこの作品は米国内で大ヒットを収めた。海外ではさらに大当たりし、非英語圏の連続番組の初回視聴率では、同社始まって以来の最高を記録した。

 ネットフリックスのクリエーティブサービス担当バイスプレジデント、ブライアン・ピアソン氏は、「ハリウッドの人々が驚くこともあるが、英語を母国語とする人口は世界に5%しかいない」と指摘する。

 外国語の番組をほとんど避けてきた米国にも、吹き替え・字幕版は浸透しつつある。ネットフリックスでは大多数の利用者が字幕か現地語の吹き替え、あるいは両方を同時に視聴できる。同社によると、米国の平均的な視聴者が見る吹き替え番組は18年の3倍に上り、外国番組の視聴では現在、吹き替え版が字幕版を上回る。

 新型コロナのパンデミックは米国民の外国制作番組受け入れを加速させた。視聴者が自宅に籠もって時間を持て余していた時期に、国内スタジオの多くは製作作業を一時停止、あるいは停止した。この結果、新番組の配信ペースは10年以上前の水準に落ちた。そのことが多くの米国民が海外番組を視聴するきっかけとなり、20年10~12月期だけでも、ネットフリックスはドイツの連続アクション番組『バーバリアン』や韓国のホラー番組『スイートホーム』、英語とスペイン語2カ国語放送の『セレナ:テハーノの女王』の配信で成功を収めた。

 ネットフリックスが海外で最も成功を収めているブラジルでは、常に吹き替え版が好まれる。同国ではポルトガル語吹き替えの『ルパン』が視聴回数の89%を占めた。

 同社によれば、ブラジルに限らず至る所で吹き替え版を選択する視聴者の割合は増えているという。これまで字幕版に依存してきた市場でも、『ルパン』やスペインの犯罪ドラマ『カサ・デ・パペル』といったヒット作の吹き替え版の視聴者数は急増している。吹き替えならコンピューターに向かって長い1日の仕事を終えた後の目にも優しいし、スマートフォンを片手に複数のことができる。

 ピアソン氏も「英語吹き替えで視聴したい人が増えている」といい、洗濯物を畳むなど家事をしながらでもあらすじを追える点をその理由に挙げる。

 裏方の声優に転機

 吹き替え版の視聴者増加はこれまで裏方だった声優らにも大きな転機をもたらした。声優業といえば、従来はハリウッドのVTRテープ吹き替えや地元テレビ番組のナレーションなど、長い間隙間を埋める存在だった。だが今は、アマゾン・コムの「プライムビデオ」やウォルト・ディズニーの「ディズニープラス」、AT&Tの「HBOマックス」などの動画ストリーミングサービス会社が多岐にわたる番組を世界各地の言語で配信するのに伴い、世界で声優の需要が急増し、成長市場になっている。

 最前線を行くのはネットフリックスだ。ブラジル南東部サンパウロ在住の声優、ウェンデル・ベゼラ氏は、同社が国際展開への取り組みを強化した2、3年前に仕事で大きな進展があったと話す。ベゼラ氏や声優仲間に仕事が舞い込み始め、ブラジル市場のインバウンドプロジェクト(海外からの案件)数は30倍に膨らんだという。

 スペインのトップ声優の一人、ホセ・ポサダ氏も、同社がスペインに参入した6年前に仕事のオファーが増えたと明かす。同国ではバルセロナとマドリードが独占的に手掛けてきた吹き替えの仕事をこなすために、ガリシアやバレンシアなど他地域にもスタジオが誕生し、「プラットフォームの開始で、ブームが起こった」という。(ブルームバーグ Lucas Shaw)

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