海外情勢

米の“マスク奉行”は企業トップ 着脱決定権が公的機関から移行

 米国では、新型コロナウイルスの感染拡大を受け在宅勤務を続けてきた多くの従業員がオフィスに復帰しつつある。そうした中、大きく様変わりしたことの一つが、マスク着用ルールの決定権者だ。公的機関ではなく、最高経営責任者(CEO)ら企業の雇用主が中心的役割を担っている。

 制限緩和受け急務

 米疾病対策センター(CDC)がワクチン接種済みの人についてマスク着用と社会的距離(ソーシャルディスタンス)に関する制限を緩和したことを受け、雇用主たちは職場での対応で急ぎ決定を迫られた。

 JPモルガン・チェースとサウスウエスト航空、ウォルマートは、ワクチン接種済みの従業員はマスクを着用しなくてもよいとする方針を打ち出した。シティグループは引き続きマスク着用を義務付ける。M&Tバンクとスターバックスは接種済みの顧客については未着用を認めるものの、従業員には引き続き着用を求める。

 一元管理されたワクチン接種済み米国人のデータベースや雇用主が従業員の接種履歴確認に利用できるシステムが整備されていないことから、従業員にオフィス復帰を促すのは在宅を要請した際と同程度に複雑となりつつある。

 マスク着用義務をめぐり自己申告に頼れば、公共の場で起きた辛辣(しんらつ)な状況が民間のオフィスでも起こり得る。いずれにせよ、この問題への対応という重荷は雇用主に回ってきた。

 アリゾナ州立大学保健学部のマラ・アスピナル実務教授は「これは感染拡大の特筆すべき新たな状況だ。雇用主はより大きな役割を果たし始めており、今後もそれを続けることになる」と語った。

 保険ブローカー、米エーオンの最高医療責任者(CMO)、ニール・ミルズ氏は、新たな指針が機能するには、検査を定期的に行うことが重要になると指摘。約60年前にワクチンが導入されたはしかが依然存在するように、新型コロナの感染拡大はワクチン普及後も続く可能性が高い。家庭医でもある同氏は、「パンデミック(世界的大流行)は終わっていない。年内に再びマスク着用が必要になるかもしれない」と語った。

 各社は業界や従業員の職種に応じ、さまざまな方針を導入している。アマゾン・コムはワクチン接種が完了した倉庫作業員について、接種履歴を会社のポータルにアップロードするという条件付きでマスクの着用を免除すると発表。JPモルガンも従業員に接種状況の説明を義務付ける。

 業界内で対応が分かれる例もある。ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングスは接種履歴が証明されれば、オフィスでのマスク着用は任意とする方針で、サウスウエスト航空も同様だ。これに対し、デルタ航空とアメリカン航空グループはオフィスでのマスク着用を従業員に求めていると両社の担当者が明らかにした。ただしCDCの指針に従い、機内と空港業務では全ての航空会社でマスク着用が必要となる。

 接種把握に限界も

 コストコホールセールやターゲットなどはワクチン接種完了の顧客についてはマスク不要とする一方、アップルなど小売業者の大半は制限を緩和していない。

 ジャクソン・ルイス法律事務所(ニューヨーク州ホワイト・プレーンズ)の障害・休暇・健康管理課の職員であるジェニファー・ボローニャさんは「CDCの新指針の発表以来、雇用主から質問攻めに遭っている」と話す。

 ボローニャさんによると、企業には選択肢が3つある。第1に自己申告に基づき、マスクを着用していない人はワクチンの接種を受けたものとして見なす。第2にワクチン未接種の場合はマスク着用義務があるという方針を示し、従業員に署名させる。第3に各従業員に接種履歴を提出させるというものだ。

 企業の対応は州や地方の法律によっても変わる可能性がある。一部のプライバシー法ではワクチンの接種状況について従業員に尋ねることを禁じている可能性がある。他方、シリコンバレーの中心部に位置するカリフォルニア州サンタクララ郡はオフィス勤務を再開させるまでに全従業員の接種状況を把握することを各社に要求している。

 ノーザンイリノイ大学の社会・産業心理学教授のブラッド・サガリン氏は「企業にとってCDCが規制を緩和に踏み切ったそもそもの根拠がワクチンの有効性にあることを強調することが重要になる」と指摘する。

 サガリン氏は「非常に難しい時期に差し掛かっている。ごく短期間に方針や規制が大幅に変更され、多くの人々を混乱に陥れた。つい最近まで私たちが使っていた手段はもう通用しない」と指摘した。(ブルームバーグ Jeff Green、Michael Tobin)

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