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IPCC報告書、脱炭素の背中押す コスト増の不安も

 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会は9日、温室効果ガスを多く排出した場合、世界の平均気温の産業革命前からの上昇幅が2021~40年に1・5度を超えるとの評価報告書を発表した。地球温暖化の進行が示された形で、2050年脱炭素を目指す日本政府の背中を押す内容だ。政府はすでに再生可能エネルギーの大幅な導入などの施策を打ち出し、民間企業も世界的な脱炭素の動きに対応するため事業構造の見直しを急いでいる。ただ、企業からは脱炭素にかかるコストを不安視する声もあり、資金的な支援を含む具体的な政策が不可欠だ。

 菅義偉(すが・よしひで)政権は50年脱炭素と、温室効果ガス排出量を30年度に13年度比46%削減するとの目標を提示。「グリーン成長戦略」では経済と環境の好循環を生み出す産業政策を掲げた。エネルギーの脱炭素化を盛り込んだエネルギー基本計画と、排出量削減対応をまとめた地球温暖化対策計画も策定の検討段階が終わった。

 これらの構想はいずれも太陽光や洋上風力といった二酸化炭素(CO2)を排出しない再生エネによる発電の強化などが柱だが、法整備や政策づくりといった具体化はこれからが正念場だ。小泉進次郎環境相は報告書公表を受けた声明で、「地球温暖化対策計画の策定と計画を実現するための大胆な政策強化に全力を尽くさなければならないとの想いを新たにした」と強調した。

 一方、大手企業は再生エネ導入にとどまらない事業改革を加速させている。発電分野では、火力発電の燃料を化石燃料からCO2を出さない水素・アンモニア燃料へと転換するため、供給網整備などを目指す企業連合が立ち上がった。自動車分野では、エンジン車から電気自動車(EV)への完全転換に向け、人員配置の見直しも進む。

 ただ、脱炭素にあたっては、電気料金の高額化や排出量削減のための高効率機器の導入など、コスト負担増も避けられない。経営体力に乏しい中小企業からは急激な変化に不安の声も出ている。政府が国際社会共通の課題として脱炭素に挑むなら、具体的な政策メニューで資金的な支援を明確にするなど、実効性を担保する取り組みが必要だ。(日野稚子)

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