海外情勢

ゼロコロナの中国で「ウイルス共存論」 習政権の安定重視で当局側は牽制

 【北京=三塚聖平】強権的な手法で新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に押さえ込む「ゼロコロナ」策を続ける中国で、専門家から「ウイルスとの共存」論が提言されている。世界的な流行長期化が見込まれる中、完全な押さえ込みは難しいとの認識からだ。ただ、共産党大会などの重要行事を控える習近平政権にとっては政治的な安定が第一で、当局側は牽制(けんせい)する動きを見せている。

 共存論が注目されたのは、中国の著名な感染症専門家である張文宏氏が、7月下旬に短文投稿サイト「微博」に発表した文章がきっかけだ。江蘇省南京市を中心に感染力が強いインド由来の変異株(デルタ株)の市中感染が続く中、張氏はコロナ禍について「多くの人が短期では終わらないと信じるようになっている。世界はこのウイルスとの共存を学ぶ必要がある」と提言。中国製ワクチンについても重症化予防には効果があるが、感染者をゼロにはできないと指摘した。

 中国誌の財新(電子版)は今月6日、米シンクタンク「外交問題評議会」の黄厳忠上席研究員による「デルタ株は厳格な海外旅行制限でも完全に阻止するのは難しい」との文章を掲載。微博にも「知恵がある意見だ」などと共存論への共感がみられる。

 一方、元衛生相の高強氏は今月上旬、「『ウイルスとの共存』は絶対に不可だ」とする文章を共産党機関紙、人民日報系のインターネットメディアに発表。「ウイルス消滅のための長期闘争」を訴え、徹底した水際対策や隔離の必要性を強調しており、共存論を打ち消す狙いとみられる。

 中国は来年、2月の北京冬季五輪に加え、習近平総書記(国家主席)が異例の3期目入りを視野に入れる党大会が秋に予定されており、政権の安定を重視して少なくとも来年一杯は厳格な防疫体制を維持するとの見方が根強い。

 もっとも欧米で規制緩和が進んで往来が本格再開すれば、中国経済が孤立しかねず、習政権にとってコロナ禍からの出口戦略は難しい課題となる。

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