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アメリカや台湾とは大違い…日本の各地でいまだにFAXが使われている本当の理由 (3/3ページ)

 【竹中】そうですね。

 【村井】くしくも、新型コロナで基礎自治体の脆弱さが明るみに出たんだ。だから、そもそも台湾のように「データを使って、この感染症の拡大を防ぐにはどうすればいいのか」ということを導き出す体制ができていないの。

 【竹中】その、はるか前の段階ですね。症例のユニークネス(一意性)を保障する仕組みがどこにも存在していないですから。

 【村井】米政府が失業給付金に600ドル(日本円で約6万2000円)を上乗せして支給すると発表したら、翌日に振り込まれたんだって。それは「ソーシャルセキュリティ(社会保障)番号」と「前年の納税の記録」と「銀行口座」が紐づいていたから。だから、日本でもしマイナンバーと銀行口座が紐づけば、少なくとも給付金を素早く支給することはできる。そして、何人が失業したかもわかる。もし、国民全員がマイナンバーカードを持っていれば、こうしたデジタル化はどんどん加速すると思うんだ。

 【竹中】加速しますね。

 【村井】それで、菅首相がやる気になれば、5年で台湾に近い体制はできるんじゃないかな。そうすれば、新しいパンデミックにも対応できるはず。

 【竹中】というか、やらないといけないと思います。

 【村井】本当はこういうことをきちんとメディアを通して伝えなければいけないと思うんだけど、今はその時間が取れないんだよ。

 ■行政への不信感が日本のデジタル化の壁になっている

 【竹中】今の日本の閉塞感の一部には、行政や政治家に対する不信感があると思うんです。それは新型コロナの陽性者数をFAXで送って、ダブルカウント(重複計上)されていたみたいな失態があったからですよね。単なる間違いじゃなくて数値統計そのものの軽視が透けて見えてしまった。それを直そうというのがデジタル庁の発足という動きにつながったと僕は思うんです。だから、今、デジタル庁に対する国民の期待は高まっているはずです。

 【村井】そうだね。

 【竹中】ただ、ここでデジタル庁が失敗すると、その期待を裏切ったことになるので、行政と政治の信頼がさらに失墜するわけです。そうならないようにするためには、村井さんがメディアに出ていろいろ話すよりも、「まずは『教育』と『医療』から手をつけよう作戦」を具体的に進めていった方が社会にとってはいいと思うんですよ。小中学校や保健所を早くデジタル化する方が重要だと思います。それを菅首相がきちんと理解しているかですよね。

 【村井】そうね。

 【竹中】それからマイナンバーについても、日本ではプライバシーの侵害の危険があるとして「すごく怪しいもの」だと思われていますが、考えてみれば“怪しい”部分は行政に対する不信感なんですよ。「統計をごまかすような役人がマイナンバーを扱って大丈夫なのか」っていう。ですから、まずはその“信頼”をしっかり築かないといけないと思います。

 【村井】今は、ありがたいことに追い風というか、「やっぱり、マイナンバーと銀行口座が紐づいていると給付金などが素早く支給されるんだ」という意識が浸透しつつあるから、少しは前に進んでいくと思うけどね。

 ■行政のデジタル化のカギは“時給1500円の大学生”

 【村井】それから、なぜ、日本の役所でデジタル化が進まなかったかというと「優しいから」という面があったからだと思う。「ついてこれない人がいるから、やめておこう」という考え方をしてしまうんだ。例えば、「キャッシュレス化を進めても、現金じゃないと払えない人がいる」「クレジットカードも上手く使えない。ましてやペイペイ(PayPay)なんてとんでもない。だから、現金決済のままにしておこう」と。「メールだと見られない人がいる。だから、郵便でも送っておこう」というふうにね。日本の行政は“優しすぎる”ところがあるんだよ。

 【竹中】ほめ殺しですか(笑)。

 【村井】そう。だったら、それを逆手にとって日本は“もっと優しい国”になってデジタル化を進めればいい。俺が考えている作戦があるんだけど、地デジの時に“お助け隊”がすごく活躍したの。そのお助け隊を地元の大学生にやってもらう。例えば、青森県に住んでいる人がデジタル化で困ったことがあったら、青森の大学に連絡をする。すると、大学の学生のお助け隊が困っている人のところにやってきて、いろいろデジタル化の相談に乗ってくれるんだ。

 【竹中】面白そうですね。

 【村井】お助け隊になるには、コンピュータやネットワークの基本、ちょっとしたデータ処理などの研修を受けてもらう。きちんとした資格にする。そして、地方自治体が雇って、普通のアルバイトよりも少し高めの時給を設定する。それで「今日はこのおじいちゃんの家にお助けに行ってください」「今日はこの農家に行って設定を手伝ってあげてください」って、パソコンをつないであげる。そうすると、日本中のパソコンがネットワークにつながるわけだし、日本の大学生のITスキルも上がる。人に教えるということは、自己研鑽(けんさん)になるからね。

 【竹中】そうですね。自分がわからないことは教えられないですからね。

 【村井】それで「あ、俺、これ教えられない」ってなると、次に教えられるよう自分から勉強するようになる。

 【竹中】どんどんITスキルが上がっていく。

 【村井】すると、数年後に社会に出た時に彼らはコンピュータネットワークと情報処理がわかっているわけだから、日本全体のデジタル化レベルが上がるはずなんだ。

 【竹中】地方のデジタル化も進みますよね。ただ、ポイントは時給を上げすぎないことじゃないでしょうか。例えば、時給とかにすると、コンピュータに詳しい人など一部の選ばれた学生のバイトになってしまいます。呼ぶ方もアプリなどの個別の専門的知識を期待してしまうかもしれない。そうじゃなくて、日本のDXをお助けするお助け隊は、研修を受ければ誰でもなれるようにしなくてはいけない。時給1500円くらいがいいんじゃないでしょうかね。

 【村井】バイト代のさじ加減が難しいね。大学生のお助け隊ができれば、例えば「マイナンバーカードに銀行口座を紐づけられない」とか「マイナンバーカードをスマートフォンに入れられない」という問題が出てきた時にもお助け隊がすぐに解決してくれる。

 【竹中】世界でいちばん優しいDXをした国になりますね。

 【村井】そう。これは他の国のお手本にもなると思うんだよ。「置いてきぼりを作らない」「人と人が助け合う」「コミュニティで支え合う」というのが日本のデジタル社会が目指すところだと思うんだ。「グーグル(Google/1998年創業)がすごく儲かっている」とか「ベンチャー企業を立ち上げて大金持ちになった」じゃなくて、「みんなで助け合えるデジタル社会」が俺の目標なの。

 【竹中】わかります。

 【村井】10年後、20年後にはそうした社会になっていてほしい。お助け隊は、その礎(いしずえ)になると思うんだけどね。

 【竹中】デジタル化社会の日本モデルですよね。

 【村井】そう。これ、やれないかなあ。

 【竹中】ヨーロッパや東南アジア諸国もマネするかもしれないですよ。そのマネを支援すれば国際社会でのデジタル庁の存在感が増しますね。

 

 村井 純(むらい・じゅん)

 慶應義塾大学教授

 1955年、東京生まれ。79年、慶應義塾大学理工学部数理工学科卒。84年、同大学理工学研究科博士課程修了。工学博士 (慶應義塾大学、87年)。東京大学大型計算機センター助手、京工業大学総合情報処理センター助手を経て、90年より慶應義塾大学環境情報学部助教授。97年、同学部教授。09年、同学部長。84年にJUNETを設立し、日本初の大学間ネットワークを接続。88年、情報技術研究ネットワーク「WIDEプロジェクト」を設立し、日本のインターネット環境づくりに黎明期から携わる。

 

 

 竹中 直純(たけなか・なおずみ)

 実業家

 1968年、福井県生まれ。「ディジティ・ミニミ」代表。タワーレコードCTOなどを歴任。坂本龍一のライブツアー、村上龍の小説に政策協力し、以来、様々な「ネット化」を続けている。

 

 (慶應義塾大学教授 村井 純、実業家 竹中 直純)(PRESIDENT Online)

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