海外情勢

ドイツ総選挙、首相の保守系与党「メルケル後」の針路示せず

 26日のドイツ連邦議会(下院)選挙では、メルケル首相の保守系与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第二与党の左派、社会民主党(SPD)に敗北した。新型コロナウイルス禍からの経済復興、地球温暖化対策に国民の関心が集中する中、「メルケル後」の針路を示せなかったのが原因だ。(ベルリン 三井美奈)

 保守派に大打撃

 CDU・CSUの得票率が総選挙で20%台に低迷したのは初めて。首相候補のラシェットCDU党首は26日夜、「第一党が必ずしも首相を出すわけではない」と苦渋の表情で語り、連立交渉に意欲を見せた。

 ラシェット氏は選挙戦で「メルケル路線の後継者」以外に看板がなかった。今夏、洪水被災地の視察中、側近と笑う映像がテレビで流れたのが致命傷になった。ベルリンの自動車会社社員(58)は「長年、CDUを支持してきたのに失望した。コロナ対策の産業補助金や生活支援が打ち切られることに不安があるにもかかわらず、対策があいまいだ」と話す。

 CDU・CSUの支持率は昨年、メルケル氏の手堅いコロナ対策が評価され、37%に達していた。首相の引退表明で、党は存在意義を問い直された。

 SPDに「真の後継者」

 ドイツは現在、ワクチン効果で感染が収束に向かう一方、経済は都市封鎖の打撃から立ち直っていない。SPDの首相候補、ショルツ財務相は、ラシェット氏の人気低迷に伴って「メルケル氏の真の後継者」として浮上。メルケル大連立政権でコロナ経済対策を担った安定感が評価された。

 選挙戦では、最低賃金の引き上げや生活支援策を公約。今春には13%まで低迷した党支持率を挽回させた。ただ、1998年にSPDのシュレーダー前首相が就任した際には4割の得票率があり、当時の党勢からはほど遠い。大連立を解消し、政権を刷新するには複数の政党の取り込みが必要で、譲歩を迫られる。

 緑の党、第三勢力に

 今回の選挙では、緑の党が過去最多の議席を獲得し、政界再編を担える第三勢力として浮上した。

 緑の党は、1970年代に反核・平和を掲げた若者の運動が起源。地球温暖化対策が国民の関心事となる中、保守層にも食い込み、特に若年層の支持を集めた。中道の自由民主党は法人減税による経済復興を掲げ、CDUに失望した支持者を吸収した。緑の党は「環境」、自民党は「コロナ禍からの経済復興」の公約が飛躍の原因になった。

 一方、移民排斥を掲げる右派「ドイツのための選択肢」(AfD)、旧共産党の流れをくむ「左派党」の左右両極は、ともに支持を減らした。

 「安定の伝統」に転機

 戦後ドイツには長期政権の伝統があった。49年の西独建国以来、首相は8人。この間、日本では30人の首相が務めた。CDU首相は5人で、のべ50年以上政権を担った。欧州連合(EU)を支えたドイツの安定政権も、多極化で変わろうとしている。

 西欧各国では多極化で政権樹立が難しくなっている。オランダは今春の総選挙で15以上の政党が議会に分立し、連立交渉が難航。ベルギーでも2019年の総選挙後、政権発足まで約1年4カ月かかった。イタリアはポピュリズム(大衆迎合主義)政党の台頭で不安定な政局が続いた。

 ドイツは17年の前回総選挙後、連立合意まで4カ月以上かかった。今回はそれ以上に難航しそうで、政治空白の長期化が懸念される。EUでは来年、フランスで大統領選と下院選が控える。独仏2大国の政権が固まるまで、EUも足踏み状態となる。

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