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波乱含みだった都民ファ「新党」 思惑入り乱れ…擁立断念は必然

 小池百合子東京都知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」が国政進出に向けて設立した新党「ファーストの会」は、衆院選(19日公示、31日投開票)での候補者擁立を見送った。ホテルの会場を借り切って記者会見を開いた設立発表に対し、擁立断念の知らせは15日夕方になって報道機関に紙1枚を配っただけ。国政進出に向け都民ファ内が一枚岩になり切れず、混乱ぶりを露呈しただけの結果に終わったといえる。

 「候補者の擁立をとりやめるとしても、あれだけ大々的に発表したんだ。どう理屈付けするかが問題になるだろう」

 14日に開かれた都民ファの会合は紛糾したが、こうした意見が出始めた段階で大勢は決まったという。

 この日、本来であれば候補者を発表する予定だった。都民ファの現職都議らが出馬の意思を示していたが、7月の都議選からわずか3カ月でのくら替えに都民の理解は得られないとして、一部の幹部らは強硬に反対した。

 結局、小池氏が現時点での都民ファの国政進出に乗り気でないということもあり、最終的には反対派が押し切る形で擁立断念の方針は固まった。問題は、どう決着させるかだった。

 「撤退戦は攻勢より難しい。着地の仕方は今後の浮沈にも関わる」。都民ファ関係者はこう語る。

 翌15日、報道機関に配布したコメントで、都民ファと新党の代表を務める荒木千陽都議はこう説明した。

 「国政政党に有利な現行選挙制度の下、異例ともいえる戦後最短の日程で公示日が早まったことなどを受け難しいと判断した」

 岸田文雄首相が想定よりも衆院選の日程を早めたことが、むしろ後付けの理由として救いになったといえなくもない。

 そもそも、新党船出の段階から都民ファは一枚岩ではなかった。荒木氏らが新党の設立を発表したのは今月3日。その時点で一部の幹部に加え、小池氏自身も難色を示していた。

 設立発表の記者会見で、荒木氏は「小池知事には相談しており、連携もさせてもらいたい」と言及した。一方、小池氏は同じ日の報道陣の取材に「詳細は存じていない。今は都政に専念している」と述べるなど、終始距離を置き続けた。

 それでも、荒木氏らは都内全選挙区での擁立を目指し公募を実施するなど、国政進出に向けた動きを続けた。背景には危機感がある。7月の都議選で都民ファは議席を減らした。4年後の都議選で都民ファの存在意義は示せるのか-。複数の都民ファ現職都議に加え、落選した元都議らも出馬を模索した。

 政府関係者によると、9月以降、荒木氏の姿が永田町の国会議員会館で頻繁に目撃された。「新党の設立と、その後の野党との連携を見据え下準備を進めているのだろう」。少なくない関係者がこんな見方をしていた。

 新党の設立には、小池氏を牽制(けんせい)する意味も込められていた。

 7月の都議選で都民ファは議席を減らし、自民は増やした。円滑な都政運営のため、小池氏が自民に配慮する場面が増える中、「国政新党を打ち出して小池氏と自民との間にくさびを打ち込む。いわば身内の反乱だ」(政府関係者)。

 小池氏に心酔する荒木氏自身に「牽制」の意図があったかどうか定かではないが、少なくとも一部の都議にこうした狙いがあったことは間違いない。

 新党設立にはさまざまな思惑が入り乱れ、当初から波乱含みだった。そもそも、小池氏が自身に反旗を翻すような動きを許すはずもなかった。今回の擁立断念は、当然の帰結だったとさえいえる。

 なお、新党は次の参院選での候補者擁立を目指し、他の野党との連携も視野に入れ今後も活動を続けるという。

(大森貴弘)

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