あふれかえる「アベノミクス」 市場は第3の矢を待っている

2013.5.28 10:30

【ビジネスアイコラム】

 本屋にいくと経済書のコーナーは「アベノミクス」関連の本であふれかえっている。日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁や岩田規久男副総裁をはじめリフレ派と呼ばれる経済学者や評論家たちの本や、一方ではそれに対抗する反リフレ派の本も同時に積み上げられている。

 「アベノミクス」の真相から真実まで、あるいは『リフレは正しい』から『リフレはヤバい』まで、特に同じ著者が同じような本を何冊も出版しているのが特徴だ。

 ある本屋では、書店員はきれいに両派を分けたつもりだろうが、反リフレ派であるはずの東大大学院の吉川洋教授の『デフレーション』が、岩田副総裁などの『アベノミクス』本の間に鎮座していた。多分に感覚的ではあるが、売り場に占める面積比では7対3でリフレ本が優勢というところだろう。

 現在までのアベノミクスの成功は多分に株式市場の急上昇に支えられてきたところがある。「リフレは危ない」と警告する経済学者や評論家、あるいはジャーナリズムも昨年11月から上昇を続ける株式市場の前では、その反論もむなしく響いていた。しかし株式市場というものは果てしなく上昇し続けるものでもない、急上昇にはしかるべき速度調整が伴うものなのだ。

 5月23日の日経平均は大暴落を演じた。前日比マイナスの1143円28銭安の1万4483円98銭で、この日の下落率の7.32%は1日の下落としては1971年のニクソン・ショックに次ぐ市場第10位の下げだったのである。

 この日は国債利回りの1%乗せも伴ったことから、財政ファイナンスの危険を伴うアベノミクスはいよいよ危ないとの意見が新聞紙上をにぎわすことになったがこれもまたこれで早計である。

 1949年からの日経平均月次収益率データでは、実は暴落前日の22日までの5月の月間収益率は768カ月の月間中、史上第4位だったのである。

 つまり5月は「史上まれに見る」大暴騰をしていた。だからこそ大暴落が生じたのである。

 しかしながらここからは、これまでのような一本調子の上昇相場は難しいだろう。(1)FRB(米連邦準備制度理事会)による金融緩和に支えられてきた米国市場で緩和姿勢に達成感が出始めたこと(2)インフレ目標の2%の達成度に対して、株価上昇のペースが早すぎ、好況感の持続が懸念されること(3)同様に国債利回りの上昇ペースに市場が神経質になっていること(4)23日に発表があった中国製造業PMI(購買担当者景気指数)速報値の7カ月ぶり50割れは、アジア株式市場全体を売りとした。

 急激な円安は中国、韓国経済にマイナスの影響を与え、結局は日本の株式市場にフィードバックされることがわかった。本屋の「アベノミクス」本の異常な盛況は市場参加者の政策の未消化も示唆していたのだ。いずれにせよ当面の市場は注目の第3の矢の評価待ちなのである。ここからは金融政策だけでは不安定な市場が続くことになるだろう。(作家 板谷敏彦)

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