消費税増税による中小企業問題の深刻化 アベノミクス格差拡大の背景

2013.12.17 11:30

 安倍首相は来年4月からの消費税増税を決断したが、中小企業問題の深刻化は避けられないだろう。中小企業は、銀行からの借り入れの返済猶予を受けられた「中小企業金融円滑化法」が期限切れしてしまった状況で、円安に伴う原材料コスト上昇をまともに受けている。そこに消費税増税後の消費需要減の直撃も受けることになるからだ。

 金融庁の銀行検査マニュアルで「要管理先」の中小企業は約40万社、銀行にとって不良債権扱いとなる債務は約37兆円に上る。これらの債務はリーマン・ショック後に施行された「中小企業金融円滑化法」で返済が猶予されてきた。

 同法が今年3月末で期限が切れた後は金融庁の指導で銀行が破綻処理しないように押しとどめている。だが、今後デフレ圧力が高まると問題企業の先行きが閉ざされるし銀行も持ちこたえられなくなる。

 最終的な破綻処理となると、銀行は信用保証協会に不良債権を持ち込んで「代位弁済」させるが、信用保証協会が保険をかけている日本政策金融公庫が弁済額の7割から9割を支払う。

 したがって平成バブル崩壊時のような銀行の信用不安にはならないが、財務省系列の日本政策金融公庫が打撃を受け、そのツケは国庫を経由して最終的に納税者に回る。中小企業は日本経済を支え、全企業数421万社の99・7%、全従業員数4297万人の66%を占めている(2009年時点、総務省調べ)。

 アベノミクス効果で、実質経済成長率は今年4-6月期で3・8%と回復したが、その恩恵は一部に限られる。財務省「法人企業統計」によると、4-6月期の中小企業(資本金1000万円以上1億円未満)の経常利益は前年同期比で12・5%減、中堅企業は微増、対照的に大企業(同10億円以上)は同49・7%と急回復している(上のグラフ)。

 アベノミクスの下での格差拡大の背景について、ゴールドマン・サックス・ジャパンの馬場直彦氏らは、同社発行の日本経済分析リポート(10月9日付)で「大企業と中小企業間での価格交渉力差がある」と指摘している。

 円安に伴う原材料コスト上昇を中小企業がまともに受け、販売価格に十分転嫁できない。輸出比率が高い大企業の場合は為替差益の恩恵もあるので利益は急上昇するが、内需依存の中小企業は負担増だけが残るのだ。

 それを端的に示すのが企業の「交易条件」。交易条件とは販売価格と仕入れ価格の差のことで、日銀のDI(Diffusion Index=業況判断指数)では、価格が上がっている企業の割合から下がっている企業の割合を差し引いたものを表す。

 販売価格DIから仕入れ価格DIを、さらに差し引いたのが(画像)下のグラフだ。15年デフレの間、交易条件は悪化しっぱなしでマイナスが続いてきたが、短期的には円高局面で改善し、円安局面で悪化してきた。

 ところが、安倍政権発足以降、円安が急速に進むのと並行して中小企業の交易条件は急激に悪化したままなのに、大企業は4月以降改善している。

 気になるのが増税後だ。前述の馬場氏は、「民間消費などは中小企業に相対的に大きな収益をもたらす。消費税増税後に民間消費が頭打ちとなり、輸出主導の色彩が強まってくると、収益格差はますます広がる可能性がある」と論じているが、同感である。

 安倍首相は消費税増税に伴う家計への負担増からくる消費需要の減退とデフレ圧力の高まりを懸念し、5兆円の経済対策を打ち出した。もとより前年度末の真水5兆円の補正予算で今年度の成長率が押し上げられたのだから、それ以上の財政出動がないと、来年度の景気失速は避けがたい。

 そこで政府は復興特別法人税の来年度廃止など法人関連の減税を餌にして企業の賃上げを誘い、内需拡大につなげるシナリオを描いている。しかし、中小企業は消費税増税後の消費需要減の直撃を受ける。

 円安時に見られたように価格交渉力が弱く、収益はさらなる低下が懸念される。全雇用の3分の2を占める中小企業による賃上げは困難で、勤労者とその家計に増税負担がのしかかる。

 アベノミクス指南役の浜田宏一エール大学名誉教授は「消費税の税率が2倍になると、その社会的な損失はその2倍でなく、その2乗、つまり4倍となる」(同教授の著書『アメリカは日本経済の復活を知っている』/講談社)と警告してきたが、中小企業問題からして、そう思う。(ネットマネー)

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