追加増税で「持続成長」壊すな 「消費税率8%」で歪む景気

2014.4.6 18:04

 【日曜経済講座】編集委員・田村秀男

 消費税率はいよいよ8%。気掛かりなのはデフレ下での増税に伴う景気の歪(ゆが)みだ。所得・消費・投資・雇用という経済好循環の芽は育つのか。

 今春闘で大手各社が賃上げに応じた。「景気の好循環が明らかに生まれ始めた」(安倍晋三首相)のだが、民間の推定の多くは、中小企業を含めた産業界全体の賃上げ率は0・5~0・8%にとどまる。消費税増税効果を含めた平成26年度の消費者物価上昇率見通し3%にはるかに及ばない。この点について、浜田宏一内閣参与(エール大学名誉教授)は若者向けの「産経志塾」講座で、「賃上げの幅よりも、来年以降も続くことがより重要です」と、持続性を強調したのが印象的だ。

 物価下落を数倍も上回る速度で賃金が下落する日本型慢性デフレは消費者の購買意欲を萎縮させてきた。企業は内需に見切りを付けて、設備投資は海外に重点を置いてきた。悪循環から抜け出すためには、持続的な賃上げ期待で消費者が「明日はもっとよくなる」と思うようになることが必要に違いない。

 問題は消費税増税による消費者心理へのインパクトだ。内閣府発表の消費者態度指数は消費者心理の代表的データである。外資系証券大手のゴールドマン・サックスの馬場直彦・日本経済アナリストによる3月7日付リポートによれば、同指数は雇用、賃金、株価と消費者物価動向の4大要因に左右されるが、最近では物価上昇による悪化が最大のマイナス要因だという。4月からは消費税増税に伴う値上げが加わる。需給によって自律的に決まるべき価格が政府によって強制的に引き上げられ、消費者は財布のひもを締める。

 今年4~6月期の景気は住宅や自動車など高額の耐久消費財の増税前駆け込み需要の反動減のために大きく落ち込む。消費者心理の冷え込みが一時的現象にとどまればよいが、7月以降回復する保証はない。賃上げ率はインフレ率を大きく下回るし、「株価の鈍化ないし、消費増税後の経済下振れで雇用環境が悪化すると、消費者マインドはさらに悪化する可能性がある」(上記リポートから)。

 グラフは最近の消費者態度指数推移を平成9年4月の消費増税時と比較している。増税決定後から増税実施前まで、指数は急速に落ち込んだ点では今増税局面と重なる。当時、増税実施後は若干の改善がみられたものの、9月以降は再び悪化し、翌年からはデフレ不況に突入した。消費者心理が弱くなった局面で、アジア通貨危機や山一証券の経営破綻が重なったことも響いたのだろうが、今回は上記の国内要因に加えて中国のバブル崩壊懸念など海外にも不安材料は多い。

 消費税増税を強行するための、「不純動機」ありありの財政出動も経済を歪ませる。財務省は公共工事などを6月末までに4割以上、9月末までに6割以上執行するよう、各省庁に指示している。消費税率引き上げ後に予想される景気の落ち込みを防ぐのが表向きの理由だが、麻生太郎財務相は「7~9月期に(景気の上向きを示す)数字が出るような結果にしたい」と正直だ。7~9月期の「数字」は、安倍首相が来年10月からの消費税率追加引き上げを判断する際の目安となる。

 財務省は25年度、公共事業予算を前半に集中して執行し、消費税増税の判断基準になる4~6月期の成長率のかさ上げに成功し、増税を渋る安倍首相を押し切った。味をしめてもう一度、というわけだが、予算の先食いの反動が必ず来る。昨年10~12月期以降は公共投資が細って、成長率を大幅に押し下げてしまい、投資家や企業者に冷や水をかけた。

 前回の消費税増税時、政府は公共事業費を8年度に前年度比3兆円、9年度で同7000億円減らし、増税と合わせた緊縮財政で回復しかけていた景気を圧殺した。今回、大型補正を合わせた15カ月予算ベースでみると、来年度の公共事業予算は今年度を3兆円程度も下回る緊縮だ。前倒し、集中発注というカンフル注射での景況はしょせん、つかの間でしかない。薬切れで景気の体力が萎える。それが消費者心理をさらに悪化させると、国内外の世論はアベノミクスに失望するだろう。

 せっかく脱デフレに向け自律的な回復軌道が見え始めたというのに、政府が自らの政策でそれを壊すのは悲劇と言うよりも奇々怪々、不可思議である。安倍首相は少なくとも、消費税追加増税の判断基準は7~9月の瞬間風速の数値ではなく、より長い期間を見渡した経済成長の持続力に置くべきではないか。

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